神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~60-70話
なのは達は宿を後にしロッシェ亭にやってきた。
夕べは暗くて良く分からなかったが、ここは山に囲まれた静かな農村であり、目の前には、かなり大きな川も流れている。
いかにも日本の原風景と言った感じだ。
そんな片田舎に似つかわしくない立派な白亜の洋館が建っていた。
作りからして明治時代の物だった。
中に入ると階段を上がった所に一人の男の肖像画が掛けられている。
ジャン・アレジとジャン・レノを二個一したような顔の男、名前をロッシェ・バニングスと言う。
明治3年、フランスの富豪だった彼は当時流行だったオリエンタルブームを当て込んで日本に美術品の買い付けに来たのだった。
当時、会津戦争に敗れて会津藩は困窮し、相当な美術品が海外へと流出していたのである。
この時、会津藩から彼の護衛に付けられたのが御神一族だった。
彼の護衛に付いた一族の者は勇猛果敢だった。
銃を向けられてなお刀一本で立ち向かう勇気、自分の命を散らす事さえいとわずに守る姿にロッシェは感動し、その後彼らを正式にバニングスの盾として雇う契約をしたのである。
その契約が現在に至るまで続いているのだ。
美術品を買い付けに来たロッシェは、日本の養蚕技術や緑茶の品質の高さに目を付けた。
そして、それらの産物を買い付ける為にバニングス貿易を立ち上げたのである。
これがバニングスグループの礎だった。
そして一族との絆の象徴として日本に滞在する時の最も安全な拠点として
このロッシェ亭を立てたのだった。
海鳴市にあるアリサの家も元々彼が建てた別荘の一つで、15年ほど前アリサの父が結婚を機に改修した物だった。
日本中にバニングスの別荘がいくつかあるらしいと初めて知るなのはだった。
そしてこの白亜の洋館を保守管理しているのが鮫島家だったのだ。
実は鮫島家もまた御神一族なのだ。
尤も御神の剣は受け継いでは居らず、御式内程度しか使えないがそれでもそこそこ強かったりする。
アリサの執事である鮫島は次男であり、長男夫婦が近所で農業をしながら、この屋敷を守っているのだ。
「へ~、アリサちゃんの家との付き合いってそんなに古いんだね?」
なのはが感心していた。
「ただいま~」
そこへ帰ってきたのはすずか、ノエル、ファリン、ヴォルケンリッターの面々
「ふう、良いお風呂だった♪」
「すずかちゃん、どこ行ってたの?」
「この近くに良い露天風呂があるの」
そう、河原に温泉が湧いている所があるのだ。
ノエルとシグナムが楽しそうに温泉談義をしていた。
「そろそろ時間だ、行くぞ」
士郎にそう言われて渋々ロッシェ亭を後にしたなのはだった。
作品名:神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~60-70話 作家名:酔仙