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吾輩は猫でした

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 じっとしてても仕方ないからとりあえず町中を一人で歩き回ってはいるものの、何を探せばいいのかわからないから人間の姿に戻る手がかりなんて見つかるはずもなく。
 はぁ、とまたため息を吐いてしまう。
 どうしたらいいんだろう?
 さっき響たちには元に戻る方法を探すって言ったけど、そもそも私はこの姿だったんだからもう元に戻ったとも言えるわよね。
 それで困ることと言えば、ドアが開けられないこととお箸が持てないこと、学校に行けないこと、そしてプリキュアになれないこと――これが一番の問題よね。
 もし今ネガトーンが現れても私だけじゃ何も出来ない。みんなが悲しむ姿をただただ見ていることしか出来ない。そんなの絶対にイヤ!
 だからやっぱり探さなきゃ、人間の姿に戻る方法を。
 そしてまた溜め息。
 本当に、どうしたらいいんだろう?
 考えれば考えるほど気持ちが沈んでいく。不安に押しつぶされそう。
 誰かに会いたい……やっぱり私も学校に行こうかな。
「あ! セイレーン!」
 ん、この声は。
 声がした方に振り返る。
「ハミィ」
「こんなところでいったいどうしたニャ? いつもは学校に行ってる時間じゃないのかニャ?」
「……この姿じゃ学校に行ったってしょうがないでしょ」
「ああっ!? セイレーンが猫になってるニャ!」
「気づくのおそっ!」
 まったく、相変わらず天然ボケなんだから。
「どうして猫の姿に戻ったニャ?」
「私にもわからないのよ……起きたらこの姿になってたの」
「ふーん、不思議なこともあるもんだニャー」
 他の人たちに比べて反応が軽いわね。でもハミィにそう言われると、あまり深刻に悩むのもバカバカしくなってくるわね。少し心が軽くなった気がするわ。
「それで今は人間の姿に戻る方法を探してるんだけど、ハミィはどうすれば人間の姿に戻れると思う?」
 聞いてはみたものの、なんとなく答えは想像できる。
「うーん、そうだニャー」
 ハミィはしばらくうつむいてからこう答えた。
「こういうときはカップケーキ食べるといいニャ!」
 やっぱりね。そう言うと思ってたわ。
「ハミィは本当にカップケーキが好きなのね」
「だって、奏の作るカップケーキは本当においしいニャ!」
 また食べたくなってきたニャー、とよだれを垂らすハミィ。
 ハミィの気持ちはわかるわ。愛情がこもってるって、食べればわかるもの。あの味は奏にしか出せないわね。
 でもさすがに、カップケーキを食べても人間の姿には戻れないと思う。
「カップケーキはまた今度ね。今は人間の姿に戻れる方法を探さなきゃ」
「ハミィもお手伝いするニャ!」
「ホント? ありがとうハミィ」
 とは言っても、何をしてもらえばいいやら。
「それでハミィはどうすればいいニャ?」
「……とりあえず歩きましょう」
 それしかやることないし。
 私はまた行く当てもなく歩き始めた。
「わかったニャ!」
 ハミィは鼻歌を歌いながら私の後ろをついてくる。
 なんだか楽しそうね。
 そういえばこんな風にハミィと二人きりって最近なかったわね。メイジャーランドにいた頃がなんだかずいぶん昔のことのように思える。それだけ色々なことがあったってことよね。
 本当に色々あったわね……ハミィが歌姫に選ばれたこと。私が洗脳されてマイナーランドへ行ったこと。プリキュアの二人と戦ったこと。キュアミューズだと疑われたこと。どんなことをされてもハミィは私を信じてくれたこと。
 これまでいっぱいひどいことをしたのに、ハミィは私を受け入れてくれた。響も奏もアコも音吉さんもこの町も、私を受け入れてくれた。
 ふいにどこからか優しいフルートの音が聞こえてきた。それにつられてバイオリンが楽しげに音を奏でる。それを見守るトランペットがいた。
 みんな、幸せそう。
 この町を歩いているだけで笑顔になれる。
「いい町ね」
 自然と口からそんな言葉がこぼれた。
「そうだニャー」
 ハミィは静かにうなづいてくれた。
 ……うん、元気が出てきた。
「ありがとう、ハミィ」
「うん? なんだかよくわからないけど、どういたしましてニャ!」
作品名:吾輩は猫でした 作家名:ヘコヘコ