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神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件91-101話

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第96話 地獄のヨハネスブルグ

 3月中旬、南アフリカはヨハネスブルグにやってきたシャマル達。
アフリカ全土で、第4位の大きさを誇るこの町は、世界最悪の犯罪発生率を誇る町でもあった。
 とにかく治安が悪いのである。
しかし、その町に人影が殆ど見られない、エボラ出血熱の影響だった。
なるべく出歩く機会を減らし感染を防ぐ以外に方法はなかった。
 感染すればほぼ確実な死を迎える。
エボラ出血熱は最初は高熱から始まる。
すぐに出血性の下痢に移行し最後は体中の穴という穴から血を吹き出して死に至る。
致死率は50~90%、非常に恐ろしい病気であった。
 町の周囲は軍隊が取り囲み、誰も逃げ出せない様にしていた。
そう、感染者を町の外に出さない為である。
許可のある者以外、逃げだそうとすれば容赦なく射殺される。
そうやって感染が収まるのを待つしかない状態だった。
既にパンデミックが起き感染源を断つという事は不可能だったからだ。
 シャマル達はこの町一番の病院にやってきた訳だが病院に入るまで国連のトラックに乗せられていた。
病院ですら白い細菌防護服を着た国連の兵士が警備しているほどだ。
顔も防毒マスクをしている。
 病院内は近代的で清潔な作り、設備もなかなか新しい。
シャマル達は病院内に衛生区域を設定し、衛生区域内は一般患者それ以外は感染の疑わしい者とした。
「スーちゃんはここから出ちゃダメよ」
 スーは衛生区域から出る事が許されなかった。
一方で、シャマル達は辛い仕事が待っていた。
それは命の選別だった。感染しているかどうか?
感染していればすぐに感染者病棟へ送るしかないのだ。
そこへ送られるという事は死の宣告だった。
 泣き叫び半狂乱となってそれでも助けを求める患者の断末魔が何時までもシャマルの耳にこびりつく、どんなに助けてあげたくても発症したらもう助ける事の出来ない病気なのだ。
心を鬼にしてそれをやるしかない。
とにかく感染を食い止める方法が見つかるまでそれを繰り返すしかなかった。
 病院の敷地には夥しい数の十字架が並んでいた。
全てエボラ出血熱の犠牲者達だ。
そしてそれは病院の敷地だけでは足りず、郊外の丘の向こうまで十字架の群れが続いていた。
 スーは病院の上の階から埋められていく人たちを眺めていた。
それはあまりに虚しく悲しい光景だった。
 国連治安維持軍の兵士達がビニールで巻かれた遺体を深く掘られた穴に放り込んでいく、穴がある程度埋まると土をかけてその上に十字架を立てるのだ。
みんな細菌防護服を着ている物のそれだけでは心配な様だ。
 それにこの病院の医者も何人かは逃げ出していた。
看護婦の中にも感染して命を落とした者が何人か居たほどだ。
だから、シャマル達の所へあの予防接種が送られてきたのだ。
シャマル達は今のところ感染が見られない。
一応、診察する時は細菌防護服着用で特殊フィルターのマスクをしている。
まあ、診察はマルク先生の担当で安全な患者だけシャマル達が手術している状態だった。
 今のところマルク先生の診察が完璧な為衛生区域内への感染はない様だ。
でも、それは紙一重の安全でしかなかった。
もし、万が一感染者が入り込めばあっという間に感染が広がってしまうからだ。
 シャマルは1日の仕事が終わるとその夥しい十字架の前に祈りを捧げるのが日課となった。
助けてあげられなかった事を謝罪し、許しを請うそれしかできない自分があまりに無力で情けなかった。
いや、今の人類の無力さに自然の驚異に打ちひしがれるしかないシャマルだった。
 夜寝る時も、シャマルはスーを抱いて眠る。
スーを抱き締めて涙を流しながら眠るシャマル、スーはそのシャマルの涙を、その悲しみをどうにか止めてあげたかった。
でも、今の自分には何も出来ない、何でもいいから何かシャマルの役に立ちたいとそう願うスーだった。
「こうなったら、特効性のワクチンを自作しよう」
 マルク先生の孤独な戦いが始まっていた。
例え今この場で自分が完成させられなくても、後を引き継ぐ医師達がそれを完成させられるよう分かり易い資料を作りながら彼の戦いは続く、やがて彼の努力は半年後に大きな成果となってヨハネスブルグの町を救う事になった。