神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件91-101話
第93話 波(は)!
それは唐突に起きた。
スキーを楽しんでいたなのは達はその音に振り返った。
突然山が鳴り始め激しい振動と共に雪が津波の様に押し寄せてくる。
巨大深層雪崩だった。
その圧倒的な迫力もはや逃げる事など出来ない状況だ。
いや、なのはやはやて達だけなら何とか逃げられるだろう。
でも先生や友達が居る。
それにこの巨大雪崩スキー場だけで止まりそうにはない。
このまま行けば麓の温泉街も巻き込まれて全滅する。
それはまさに絶望しか存在しない出来事だった。
なのはは考えた迷っている暇はない魔法を放とうでもそれを見られたら自分はこの世界から居なくなろう。
もうこれ以上関係ない人間は巻き込めないから。
それがなのはに覚悟を決めさせる。変身している暇もない。
なのはは指先にあらん限りの魔力を集中する。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
特大のバスターをぶっ放した。
スキー場に迫っていた雪崩の殆どが綺麗に消し飛んだ。
爆発の効果範囲になかった雪崩も余波で流れを変えて谷に落ちていった。
ついに魔法を見られてしまった。
こうなったらミッドチルダで暮らそう、そう思った瞬間だった。
「なんか”波(は)”が出たわよ”波(は)”が!」
どうやらカメハメ波などと勘違いされたらしい。
「なのはちゃん強い!って言うか”波”って出るもんなんだね?」
さっきのかけ声を技の名前と勘違いされたらしく、
なのはは仙人級の格闘技の達人という事になってしまった。
「そりゃ、私達なのはちゃんのお父さんに毎日しごかれてるもん、そろそろあれくらい出来る様になって当たり前や」
「そう言うはやてちゃんはどうなの?」
「はっはっはー、まだぜんぜんや」
別に威張る事ではない。
そのやり取りを横にしてなのはががっくりと膝を付く、どおやら力を使いすぎた様だ。
「ぁ、なのは大丈夫?」
「ちょっと無理しすぎたみたい胸もちょっと苦しいし」
フェイトが支えて何とか旅館まで帰ってくると暫く動けないなのはだった。
「この体、まだ完全には治ってないみたい、それに魔力使いすぎてもう魔力切れ寸前だし」
「なのは、余り無理はしない方が良いよ」
フェイトがそう言った時だった。
はやてがなのはの唇を奪う。
たっぷりの魔力を流し込まれた。
「これで大丈夫やろ、後もう少し動かんといてな」
フェイトがなのはに回復魔法を掛けていた。
確かに旅館の部屋なら誰にも見られないで済む。
なのはが復活するとみんな帰ってきた。
やはりなのはが心配で遊んでいられない様だ。
「なのはちゃん、もう大丈夫なの?」
「うん、もう平気だよ」
なのはの元気そうな顔にみんな安心した様だ。
食事の後なのははまた温泉に入り浸りだった。
「今日は疲れたからもう滑らない」
だそうだ。
夕食の後、さっきの話になる。
「なのはちゃん達って滅茶苦茶強いよね、
この前はバイクを素手で粉砕してたし、
”波”まで出せるし、どれ位鍛えたらそれ位強くなれるの?」
「あの、それはですね……」
「人間辞めるほど鍛えたら、ああなれるんよ」
はやては、部屋の冷蔵庫からジュースを持ってくると、
素手でその王冠をむしり取ってみせる。
何という握力、これはあの棒渡りの成果だった。
「まあ、これが当たり前に出来て序の口位やな」
余りの事に一同言葉もなかった。
「じゃあ、さっきのアレ(波)は奥義なの?」
「まあ36有る奥義の一つかな?私達はまだ奥義は使えへんし、なのはちゃんは3個か4個奥義が使えるしって言う段階やな?」
「ふーんそうなんだ?」
ここまではやてが旨く誤魔化してくれた。
どうやら、なのははまだこちらの世界から去らなくても良いようだ。
こうして二泊三日のスキー旅行は終わった。
帰ってくれば年末、年越しの準備に大忙しだった。
作品名:神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件91-101話 作家名:酔仙