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永遠と麦の穂

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 旅も二日目。度胸の据わっているグラハムは、すっかり駱駝を自分のものにして上手く操っていた。ゆったりと砂漠の上を行きながら、刹那の話に相槌を打ったり、意見を言ってみたりといった、ごく普通のコミュニケーションを図っている。
「昼前にはオアシスに着く。今日はそこで一泊する」
「本当は昨日たどり着く予定だった街だね?」
「そうだ。そこは紛争もなく、アザディスタンと地中海とを結ぶ交易の街でもあるから、中東でもかなり賑わっているほうだ」
「ほう。それは楽しみだな」
 そう言って笑うグラハムの表情は、昨日までとそれほど変わらないように見えた。早く彼の未来への道を見つけなければと、刹那の心が焦る。アザディスタンまでの距離は、それほどでもない。
 順調に進んだ旅は、予定通りにオアシスへと着いた。
 宿を決めて駱駝も預けると、腹ごしらえをしようと二人は街中へと繰り出していた。
「しかし中東にいると、世界情勢などがまったくわからないのだから、不思議なものだな」
「情報操作が行われている挙句、ここはGN粒子によって隔離されているからな」
 それでも独自の情報網を誇る中東のネットワークがあったが、それもスィール王国の消滅によって、ほぼ半壊状態だと聞いている。
「──アロウズはどうなったのだろうか」
「……気になるか?」
 刀の持ち主のことかと刹那は勘ぐったが、グラハムの表情はそれほど動かなかった。けれど刹那の言いたいことは理解したらしい。
「あの人は最初から死ぬことも受け入れていたよ。だからもう生きてはいまい。やり方には賛同できなかったが、世話になった恩人だ。死んだ後にも汚名を被せるような真似を、連邦にはして欲しくないだけだ」
「そうだな」
 《イノベイター》が裏で糸を引いていたことを、刹那は知っている。彼らの存在が隠されているのなら尚更、罪を被るのはアロウズの生き残りということになる。
 嫌なものだと、刹那は思った。戦争は勝者にも敗者にも苦しみしか与えない。だから戦わない道を望むのに、世の中はそう簡単には変わらないのが現実だ。
「刹那、向こうから美味しそうな匂いがするぞ」
 話題がころころ変わるグラハムに呆れつつも、彼が指差す方向へ、刹那も目を向けた。
「屋台の肉屋だな」
「串に刺して売っているようだ。行ってみないか?」
「ああ」
 断る理由もないし、何より刹那も腹が減っていた。昨日からずっと缶詰と携帯食糧だけしか食べてないこともあり、食欲をそそる匂いにあらがう術はなかった。
 市場を巡りながら、行き交う人々の話にも耳を傾ける。真新しい話題が特にないところをみると、アロウズ消滅に関するニュースはまだ世界にも報じられていないのだろう。
 いくら隔離されているとはいえ、交易される荷物と共に人の口から情報は渡ってくるものだ。特にここは貿易の中心地である。どれだけ緘口令を敷いたって、漏れる噂はいくらでもあるのだった。
「いろいろと根回しをしているのだろう、連邦政府も」
「そうだろうな。だが隠し通せるものじゃない」
 市場で購入した食事をつつきながら会話をするが、どうしてもあまり明るい話題にはならなかった。
「今回の戦闘で亡くなったアロウズ兵の家族や友人は、これから辛い思いをすることになる」
「ああ。……だが、その罪は俺たちが背負う」
 《イノベイター》が生み出した存在ならば、元を正せばソレスタルビーイングの仕業ということになる。刹那はその責任を負う覚悟でいた。
「君は本当に、天上人なんだな」
 グラハムはフォークを置いて、飲み物を口に含んだ。
「それがソレスタルビーイングだ」
 戦争根絶の目的のために、世界を見続けるもの。到底受け入れられないものだということもわかっている。だが、誰かがその意志を継いでいかなければ、世界はまた争い始めることになる。
「私を生かすと言っておきながら、君は世界のために死んでいくようだ」
「そんなことはない」
 未来を作るために、刹那は生きるのだと決めた。自分の一生が無駄だなんて思いたくない。昔はともかく、今の刹那にはそういう気持ちがある。
 だから、たぶん、目の前の男を生かしたいと思うのだ。
「では、刹那。君が個人的にしてみたいと思うことはなんだ?」
「戦争根絶」
「それはソレスタルビーイングの理念だろう」
「俺自身の夢でもあるんだ。もう誰も失いたくない」
 刹那の友人たちは皆、十年前後しか生きられなかった。神の名の下にたくさんの人を殺した。ロックオンの家族も犠牲になった。刹那の血にまみれた心が望むもの、それは争う必要のない世界だ。
「刹那……」
 グラハムの驚きを含んだ声があがる。持っていたグラスをテーブルの上に置き、それから少し疲れた感じの溜息をついていた。
「君も、存外……、空っぽだったんだな」
「今のお前ほどじゃない」
 生きる目標が何もない男よりは、ずっと前向きだと言える。刹那の指摘に、グラハムは面白そうに笑った。
「私は今、君に興味を抱いているよ」
「……なに?」
「それ以上になるかどうかは、これからの君次第だが」
「……別にそのままで構わない」
 何せグラハムのしつこさは折り紙つきだ。ガンダムを追いかけ続けた遍歴を思い出し、刹那は自分と置き換えて、うんざりしたような気分になった。
「おや? それは君に魅力がないと、認めているようなものだぞ?」
「そんなものなくていい」
「寂しいことを言う。私が君くらいの年齢のときは、這い上がろうと必死にアピールしていたがなぁ」
 そう語るグラハムに、刹那は少し痛いところを突かれた。ガンダムに自分を託し、ソレスタルビーイングの理念に意志を預けた身には、そういった個人の欲は確かにないのだ。
 彼に『空っぽ』だと言われても仕方がないと、思ってしまった。
作品名:永遠と麦の穂 作家名:ハルコ