永遠と麦の穂
刹那がトレミーのブリッジへ顔を出すと、そこにいたクルーたちが一斉に視線を向けてきた。
「刹那!」
「刹那、あなたいったい──」
「捕虜をトレミーに収容した」
問い詰めたかった相手に先手を打たれた戦術予報士の喉がグッと詰まる。文句くらい言わせなさいと、スメラギは心の中で毒づくが、面倒な作業を引き受けてくれたことに対する礼はしておくべきだ。
「ありがとう、刹那。暴れたりしなかった?」
「いや、いたっておとなしかった」
「へぇ……。まぁ、敵船の中に一人じゃ、いくらアロウズでも抵抗はできないか」
ロックオンの言葉には多少の嘲りが込められている。反連邦組織カタロンの構成員でもあった彼は、刹那たちよりも根深いしがらみがあるのだ。
「独房にはビリーもいたでしょ? 彼とは知り合いだった?」
スメラギの問いに刹那は一瞬だけ口をつぐむ。
「……いや、知らないようだった」
「ふぅん。じゃあ、考えすぎだったかな?」
見たことのない黒いモビルスーツと彼の関連性は消えた。もともとたいして気になる要素でもなかったので、スメラギはそのことに関する考察をスッパリと切り捨てた。
「さぁ、補給も修理ももうじき完了するわ。地球へ行くわよ。向こうへ行ってもやることは山積みだけど、少しくらいならゆっくりできるはずよ」
スメラギは笑顔を作り、クルーたちに明るく声をかけた。
地球に下りたら、さまざまな別れが待っている。これまで一緒に戦ってきた仲間たち、成り行きで一緒になったものたち、僅かであっても共に過ごした人々が、それぞれの未来へと羽ばたいていく。
「目標降下ポイントはどこだ?」
刹那の問いには、フェルトが答えた。
「ヨーロッパのアルプス山脈よ。近くにカタロンの基地があって、前も私たちそこのお世話になったの」
「クロスロード君の希望もあってね。彼女の故郷がスペインだから」
フェルトの後を次いでスメラギも口添えをする。
「そうか、沙慈たちの」
刹那はそれだけ言うと、目の前のスクリーンに映し出される地球に目をやった。その動作が引き金となって、トレミークルーたち全員の視線も、宇宙に青く浮かび上がる、母なる大地へと注がれたのだった。