たとえばこんな間桐の話の蛇足の話(前)
「……俺は、間桐だから。やっぱり壊れて歪んで狂っていると思うんだけど」
雁夜は、桜の頬を優しく撫でながら。
「君の為に生きられる事は、凄く幸せだと思ってるよ」
だから、
「……俺は、君を、桜を……。好きでいて、愛していて、いいかな?」
頬を撫でる手に、ぽろ、と涙の珠が零れた。
「そして、出来れば……桜と、一緒に生きていたいなぁ」
ぽろぽろと、桜の目尻から涙が零れ落ちる。
「……俺の為に、生きてくれる?」
首を傾げながら問うてくる雁夜に。
桜は涙を流しながら、こくこくと必死で頷く。
「わっ、私っ……私も、好き、ですっ……!!愛してますっ!!……雁夜さん……貴方の為に……貴方と一緒に……私も、生きたいです……!!」
「……良かった。ありがとう、桜ちゃん。……愛してるよ、桜」
今まで可愛い姪っ子の為に生きてきた男は。
今この時から、愛する女の為に、そして共に生きる事を決めて。
そしてその唇に、誓いの様に口付けた。
「……私の弟と娘、マジ天使……!!ぜってーこれ披露宴で上映する!!」
「某似非優雅が憤死しそうだなー。あ、どうせならメモリアル的なアレであのビデオも流すか。まだあるだろ?」
「勿論です。しかし何度見せようとしても途中で燃やしますからねぇ、あの髭。また燃やさないでしょうか……」
「魔術使えん様にしとこう。まぁ、やらかそうとしても葵さん達にぶちのめされるのがオチだけどなー」
「つえーよな、あそこの女性陣。ウチの紅一点もだけど」
「女性は元来強いものですよ」
「……貴様等……。何故ワシまでこんな場面を見んといかんのじゃ……」
そんな二人をビデオカメラで撮る鶴野とデジカメで撮る慎二と写メってるランスロット。プラス強制連行された蟲爺。
歪みねぇ間桐である。
「……って何してるんですかお父さんっ!!お兄ちゃんっ!!駄犬ーーーっ!!」
「やべえバレた!!だがこんな場面撮らないとか父としてありえない!!」
「いいじゃん、記念記念。それに僕等が証人だからな。最期まで共に生きろよ。死別も無理と知れ」
「それは寿命で共に死ねと……?慎二も無茶を仰いますね……。と言うか、私はいつになったら駄犬ではなくなるのですか桜……。まぁ取り敢えず王に写メを送りましょうか。ウチの天使達マジ天使……っと」
「ワシはもう数にも入っておらんか……」
「ああんもうっ!!本当にもうっ!!」
「まぁまぁ、うちなんだから仕方ないよ」
「あうぅ……」
雁夜に頭を撫でられて、口を尖らせつつも押し黙る。
やっぱりまだ子供扱いなのかなぁ、と思いながらも。
それでもこの騒がしさの中で、桜は心地好さを感じていた。
────私達が家族になって。
あれから、色々あった。
駄犬が増えたり、蟲爺が哀れな弄られ爺に成り下がったり。
知り合いや友達が増えて、姉さんやお母さんとも普通に会って、笑い合える様になって。
楽しくて。幸せで。平和な日常を堪能して。人生を謳歌して。
そして。
私は。
きっとこれからも悩みながら、苦しい事も悲しい事も経験しながら。
でもきっと、それ以上に嬉しい事や楽しい事を経験をしながら、幸せを感じながら。
ずっと、ずっと、大好きで、大切な、愛している人達と一緒に。
共に生きると誓い合った、愛しい人と一緒に。
この間桐で、生きていく。
作品名:たとえばこんな間桐の話の蛇足の話(前) 作家名:柳野 雫