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ふしぎなひと。

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明け方。
眠い目をこすりながら裏山に向かう。
俺の後ろには同じように眠そうな眼をした生物委員会の一年坊主たちがじょろじょろついてくる。
どうやら一年生たちのなかでカブトムシが今はやってるらしい。
きらきらした目で
「どうやったらカブトムシ捕まえられますか?」
なんて聴かれたら、そりゃあこう答えるしかない。
「ちゃあんと最後まで責任持って飼うって約束するんなら、とっておきの場所教えてやるよ」

昨日の放課後、俺のとっておきの場所に連れて行った時は、カブトムシなんて影も形も見えなくて落胆してたけど、違うんだなぁ。
カブトムシは夜行性なんだぜ。
みんなで俺と孫兵特製の蜜をたっぷり樹に塗りつけて、朝早くにまた行くんだ。
そしたらまだカブトムシが蜜をなめてるから、その時に捕まえるんだぜ。

あくびをしながらもわくわくした様子で、チビどもの足は軽い。
「カブトムシ捕まえたら自慢するんだー」
「カブトムシでお相撲しようよ。ひっくり返ったら負けの奴!」
「いっぱいいるといいね」
捕まえた後のことを考えながらうきうきしてるな。
あ、でもちょっと待て。その辺はたしか…。

「三治郎、一平。その辺はだめだ。草むらに罠がしかけてある」
「え? 罠ですか?」
「どこに…?」
目をすがめて草むらのあたりを凝視する三治郎と一平。
どうにも見つからないらしく、三治郎がふらふらと草むらに近寄って行く。
三治郎も罠を扱うらしいから、自分が見破れない罠に興味があるんだろうな。
「お、おい、やめろよ三治郎。先輩が危ないって言ってるじゃないか」
虎若が三治郎の腕を掴んで必死で止めようとしている。
その横で孫次郎がどうしたらいいかわからずにあわあわしている。
一平はそんな3人は意に介さず、立ち位置を変え角度を変えながら草むらをみつめている。
4人それぞれの行動に性格が表れていて、おもわず笑ってしまう。
「こら、三治郎。それ以上そっちに行ったら危ないぞ」
「でもぉ…僕、気になってしまって…」
「草むらの下をよーく見てみな。葉っぱに紛れて細い糸が張ってあるのが見えるだろ?」
「え? 糸…?」
「あ、あった! ありました、竹谷先輩! あの糸を切ったら罠が発動するんですね!」
「お、虎若はさすが目がいいな」
火縄銃を扱うことにかけては右に出る者はいない虎若は、とても目がいい。
俺は虎若の頭をわしわしとなでてやる。
虎若はくすぐったそうに身をよじるけど、逃げることはない。
「虎若ばっかりずるーい」
三治郎が不満そうな顔をする。
「なんだ、三治郎もなでてほしいのか?」
三治郎の頭と、ついでに孫次郎と一平の頭もなでてやる。
三治郎も、孫次郎も一平も、きゃらきゃらと笑う。
下級生たちの無邪気な顔を見ながら、俺はそっと棟の中で溜息をつく。
「ったく、喜八郎のやつ…」
あとでちゃんと罠を外すように言っておかなくっちゃな。

がさり。

草むらが鳴る。
下級生たちの身体に緊張が走ったのが分かった。
「せせせせんぱい! い、いまなにか…!!」
「大丈夫だ。落ち着け」
「でででも、ガサって…」
「あれは七松先輩だ」
「…へ? 七松小平太先輩ですか?」
「ああ。七松先輩は毎朝裏山を通って裏々山の山頂までランニングしてるんだ」
「へえ…」
時折裏山に行くと、そこにはいつも七松先輩がいる。
走っていたり、塹壕を掘っていたり、はたまた筋トレをしていたり。
きくと毎日このあたりを走っているのだという。

ひょーい、と七松先輩は一見なにもないようなところをジャンプしたりかがんで通ったり。
ああ、今日はあそこか。
「竹谷先輩。七松先輩はなんであんなふうに跳んだりかがんだりしてるんですか?」
孫次郎が俺の袖をひっぱりながら言う。
「きっと筋トレだよ。ああやって足腰に負荷をかけて筋トレしてるんだよ」
毎日筋トレを欠かさない虎若はきらきらした瞳で駆け抜けていく七松先輩を見つめている。


どうして毎日こんなところを走るのかと聞いた時の先輩の笑顔を思い出す。
からりと曇りのない笑顔。

『ま、体育委員会みんなで走るコースだからさ、安全かどうか委員長のおれがちゃんとチェックしとかないとな』

毎日毎日、裏山から裏々山まで。
繰り返し繰り返し先輩は走って。
危険な場所はないか。罠が仕掛けられていないか。
それを確かめているんだ。

委員長…か。

誰も見ていなくても、下級生たちのために委員長でいるんだ。
先輩はやっぱすごいや。
俺にはまだむりだなぁ。
どうやったら先輩みたいになれるんだろ?


ただ、安全点検してるはずなのにどこに罠があったのか忘れちまってたら意味ないよなぁ。
なんでそこが抜けちゃってるんだろ。
ふっしぎだよなぁ。
さて、カブトムシを捕って学園に戻ったら綾部に罠を外すよう言わなくっちゃな。


作品名:ふしぎなひと。 作家名:ピロリ