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「ここでようやく商人である君への話の本題だ。クレメンス様殺害の容疑者である新市街の大商人たちの勢力を削減してもらいたい。懇意になって情報が集まるのは良いが、あまり彼らの力が強くなりすぎるのはまずいのだ。奴らは分散したクラウディウス家の財閥の買占めにかかっている。それを阻止してもらいたい」
「ま、待ってください」
 フルブライトは慌てた。
「私も会社経営を営む商人の一人で、常にピドナにいるわけでもありませんし、かつての勢いはないとはいえ、フルブライト家は今でも名門商家の一つに数えられています。商業道徳を無視してあからさまに買占るなど……」
「いや、説明が足りなかった。君に直接やってもらうわけではない。ベント家を知っているだろう? 君の一族と関係が深く、幸いなことにクラウディウス家ともつながりのあるベント家のトーマスという青年が、ここ、ピドナにいる。商才ある、なかなか有能な男だというその彼に、名門であるフルブライト家から依頼をしてもらいたいのだ。子飼いというべき信頼のおける同盟者をピドナに作ることは、フルブライト家にとっても有益になるのではないか? もちろん、君にも、そしてベント家のトーマス君にも損はさせないつもりだ」
 フルブライトは考え込んだ。生粋の商売人である彼はそれに伴う損益を、明晰な頭脳ではじき出していたのだ。
「……一つ、お聞きしたい。クレメンス様の犯人を捕らえた後、閣下はメッサーナ王になられるのですか?」
 ルートヴィッヒはじっとフルブライトを見つめ、それから小さく肩をすくめた。
「いや」
 そうして苦笑する。
「おれは王にはならない。クレメンス様にそう約束したもんでな」
「クレメンス様?」
 びっくりしてフルブライトは聞き返した。リブロフの軍団長が、いつピドナ近衛兵団長とそんな会話をしたのだろう。ルートヴィッヒは言った。
「あの戦いの後、おれはクレメンス様と話し合ったのだ」
 王座をかけたピドナ軍とリブロフ軍の戦いの直後、密かにクレメンスはリブロフ軍の陣営に来た。勝った軍団長が敗将の軍営を訪れるなど、あり得ない話である。ルートヴィッヒはそこで、クレメンスの真意を知った。
「度胸のあるお人だった。おれがその気になれば殺されても文句の言えない状況下で、この国の未来を憂えておられた。前王が崩御して十年、国中の者は一刻も早い平和を願っている。が、わしが王になるわけにはいかぬ、と」
 フルブライトは深いため息をついた。
「……先ほどのお話ですね?」
 クレメンス様が王になられることを望んでいた者は多いと聞いていた。が、武人と商人の二つの顔を持つ彼は、両方を手に入れることを許さなかったのだ。どちらかしか選べないのなら、一族のためにもクラウディウスを捨てることは出来なかったのだろう。
 ルートヴィッヒは節だった指で、酒の盃を包み込んだ。
「では誰が王になるにふさわしい人物かというと、クレメンス様はある文官のお名前を挙げられた。他国者である君に、この方の名前を教えるわけにはいかないのは了承してくれ」
 フルブライトはうなずく。
「聖王十二将のお一人であるパウルス様が新メッサーナ王国初代国王となられたことで、代々国王の座は武臣に継がれることが多かった。が、過去に文臣の王がいなかったわけでもない。アルバート王が急死され、長きに渡っておれたち武人が王の座を奪い合っている中、メッサーナ王国を支えてこられたのは、彼らであるとクレメンス様はおっしゃられたのだ。その方こそ、メッサーナの王たる資格を持つ人だとおれも思う」
「では、閣下はクレメンス様と共に、その文臣を支持しようとしておられたのですね」
「二強であったおれとクレメンス様が口をそろえれば、誰も反対はできなかっただろう」
 その矢先にクレメンスは何者かによって殺害されたのだ。ルートヴィッヒが何としても犯人を探し出してやろうとする、悔しさのようなものがフルブライトにも感じられた。
 が、フルブライトは油断せず、冷静に尋ねた。
「ではなぜクレメンス様のご令嬢と一緒にいるシャールという男の腕を切られました?」
 新しい主人となったルートヴィッヒに忠誠を誓わなかったシャールという男の名には、聞き覚えがあった。今、クレメンスの令嬢と一緒にいる男はその男だろうと、見当をつけたのだ。
 ルートヴィッヒは言った。
「ミューズ様のためだよ」

作品名:ビジネス・チャンス 作家名:しなち