風香の手帖
六話 「祭りの前夜」
今日もよつばは綾瀬家に来て、恵那と遊んでいた。
「よつばちゃん、明日は花火大会だね」
「おそらにどーんてやつなー」
「そうそれー。また浴衣来て行くんだー」
「よつばは、やきそばとわたあめとりんごあめとたこやきたべる!」
「あと金魚すくいとか風船釣りとかねー」
「みうらはいかない?」
「前にみうらちゃんと一緒に行こうねって話してたんだけど、みうらちゃんどうするんだろ。よつばちゃん、みうらちゃんの家へ行ってみる?」
「うん、いくー」
「じゃあこれから行ってみようかー」
そのとき玄関のチャイムが鳴り、虎子がやってきた。
「あっ、虎子さんこんにちはー」
「こんにちは」
「とらきたー」
「よつばもいるのか」
「あさぎお姉ちゃーん、虎子さんだよー」
「虎子上がってきてー」
「おじゃまします」
虎子はあさぎの部屋に上がっていく。
「それじゃ私たちも行こうか。お母さーん、よつばちゃんと一緒に、みうらちゃんち行ってくるねー」
二人は出かけていった。
途中二人は花火の話をしながら歩いていく。
「花火きれいだよねー」
「きれいなー」
「知ってた? 花火の中には火薬が入ってるんだよ」
「かやく?」
「うん。それがバーンて爆発して、燃えてる火薬がお空に広がるからきれいなの」
「ふーん。ばくはつなー」
「そう。うちでやった花火も一緒だよ。火薬が少しだから爆発しないの」
「じゃあ、はなびいっぱいもやしたらあぶない?」
「それは危ないからやっちゃダメ!」
「わかったー」
そして二人はみうらの住むマンションについた。
インターホンでマンションのドアを開けてもらい、早坂家に行く。
「こんにちはー」
みうらは自室にいた。
「みうらちゃん、来たよー」
「まあ適当に座ってよ」
「みうらちゃん、明日の花火大会どうするの?」
「あれー? 花火大会ってもう明日だっけ?」
「そうだよー。一緒に行こうって言ってたじゃない。だからどうするのかなって思って来たんだよ」
「明日は誰が行くんだ? この間の花火大会と一緒?」
「よつばは、とーちゃんとふーかとジャンボといっしょにいく!」
「へー、風香ねーちゃんも一緒に行くんだ。じゃあ、あさぎねーちゃんも一緒?」
「あさぎお姉ちゃんは、多分お友達と一緒に行くって言ってた」
「それじゃ星を見に行ったときと一緒か。それで、私と恵那はジャンボの車に乗っけてくれるわけ?」
「私はそう思ってたけど……」
「それとも、恵那は私とここで見るか」
「だってここには屋台ないもん」
「そーだよなー」
「でも風香ねーちゃん、何で明日は友達と行かないんだ。友達と喧嘩したとか?」
よつばと恵那は顔を見合わせる。
「だって、お友達よりは好きな人と一緒に行くよねー」
「ねー」
「好きな人? 誰のこと?」
「とーちゃんとふーかけっこんする」
「…………はあ?」
「みうらちゃん、誰にも言っちゃだめだよ。実は風香お姉ちゃんと、よつばちゃんのお父さんが結婚するのです!」
「です!」
「うそだー。だって風香ねーちゃんて高校生なんだから、結婚するわけないじゃん」
「うそじゃないよー。お姉ちゃんが卒業したら結婚するんだって」
「ふーん。じゃあ、風香ねーちゃんがよつばのお母さんになるのか」
「ふーか、よつばのおかあさんなー」
「風香ねーちゃん、そんなに早くお嫁さんになるんだ」
「みうらちゃん、ほんとに誰にも言わないでね」
「うん、わかった。ところで恵那と私は明日どうすればいい?」
「よつばちゃんお願い。私たち二人がジャンボさんの車に乗れるか、お父さんに聞いといて!」
「ラジャー!」
綾瀬家では、あさぎと虎子があさぎの部屋でくつろいでいた。
「虎子、明日の花火大会どうしようか」
「結局みんな時間がバラバラだったし、とりあえず二人で行けばいいんじゃないか」
「……そうしようか」
「何かあるのか?」
「よつばちゃんたちと一緒に行ったら面白いかなと、ちょっと思っただけ」
「よつばか。確かに面白いかもな」
「小岩井さんも面白い人だしねえ」
「あの人、仕事は何なんだ?」
「風香はこんにゃく屋だって言ってたけれど正体不明。だったのがこの間わかった。翻訳家なんだって」
「へえ」
「それが傑作でね。先日小岩井さんがうちにあいさつに来たんだけど、小岩井さんのことを風香が、画期的なこんにゃくを開発してる人って説明しちゃったのね。それを訂正するのに一苦労だったみたい」
「……何のあいさつだって?」
「虎子、ここだけの話だけど、風香が高校を卒業したら、小岩井さんと結婚するのよ」
「…………え?」
「別にまだ婚約してるわけじゃないんだけど。風香と結婚したいって、小岩井さんがうちの両親にあいさつに来たのね。そしたら、両親ともに反対もなくお許しが出て、今はもう綾瀬家公認の仲」
「風香ちゃんて、前からよつばのお父さんのこと好きだったのか?」
「そうみたいね。小岩井さんのところに一週間ぐらい泊まったこともあったし」
「割と積極的なんだな」
「あの娘の場合、本人にその自覚がないのがすごいところよ」
「じゃあよつばがいるから、結婚したらすぐお母さんか。ずいぶん思い切ったことをするな」
「そこらへんは風香と話したことがあるけど、早くよつばちゃんと住みたいんだって」
「私には無理だ」
「風香が家庭的で子供好きって言うのが大きいんだろうけど、私も無理」
「でもそんなことがあったのか。それじゃ明日はどうすればいいんだ?」
「とりあえず姉としては妹を恋人と二人きりにしてあげたいと思うわけよ」
「よつばを預かるのか。それならよつばが乗ってる車と一緒に行けばいいんだな」
そのときあさぎの携帯が鳴った。
電話はあさぎの友達からであった。
「うん、わかった。じゃあこないだのところで。それじゃね」
「なんだって?」
「由美が行けるようになったから、車に乗せて欲しいって」
「それじゃよつばとは行けないな」
「また今度ね」