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風香の手帖

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 風香は小岩井家に来ていた。
よつばも既にみうらの家から帰ってきている。
ジャンボが来る予定になっているが、遅れているようである。
風香は今のうちに電話をかけることにした。
「もしもし、しまうー。明日のことなんだけどさー」
「わかってる、わかってる。小岩井さんと行くんでしょ」
「うん、ごめんねー」
「そうだと思ってちゃんと一緒に行く人見つけてあるから大丈夫だよ」
「ありがとー」
「ところで、小岩井さんがあんたの家にあいさつに行くって前に聞いたけど、その後どうなったの」
「この間小岩井さんがうちに来てくれて二人であいさつしたんだけど、私が高校卒業したら籍を入れたいって、小岩井さんが言ってくれたのね。私はお父さんから猛反対されると思っていたんだけど、あっさり認めてくれて。だから今は事実上婚約状態」
「じゃあ風香、十八で結婚しちゃうんだ」
「正式なことは何も決まってないけど、そうだったらいいな」
「風香の顔が見えてきそうだよ。それにしても夏休みに入って”家出”して、付き合いだしたと思ったら、今度はもう結婚の話。よくこんなにポンポン決まっていくもんだね」
「なんかね。怖いくらいに順調」
「それだけ風香と小岩井さんの相性がいいってことなんじゃない」
「そうなのかな」
「これから大変だと思うけど、私にできることがあったら電話して。っとごめん、キャッチ入っちゃった。それじゃねー」
「うん、ありがと。おやすみー」

 電話が終わり風香が居間に行くと、小岩井とジャンボが話をしていた。
「ジャンボさん、こんばんは」
「うぃーす。風香ちゃん来てたのか」
「うん、明日の用意とかあったから」
「コイから聞いたけど、ご両親のお許しをもらったんだって? 良かったな」
「ありがとう!」
「次はコイからダイヤの指輪をもらうわけだ」
「婚約指輪は女の子のあこがれだもん。 ……あれ? 小岩井さん、私たちっていつ婚約するの?」
「結婚式の半年前ぐらいに結納をして、そのときに婚約指輪を渡すから、正式にはそのときだな」
「後一年ぐらい……」
「ただ指輪を買う前に、二人でいろんな店に見に行きたいから、風香ちゃんも指輪のカタログを見といた方がいいよ」
「わー、すごい楽しみ!」
いつの間にかジャンボとよつばはいなくなっている。

「それよりも後半年ぐらいで、結婚式場を探し始めるから」
「そんなに早いの!?」
「いい日から埋まっていくからね。しかもこれ以降のことは双方の親と相談しながら、決めていかなきゃならない」
「うー、受験勉強もあるのに結婚関係のことも覚えなくちゃならないんだ」
「ぼやかない、ぼやかない。俺も手伝うから」
「うん。他には何をしなきゃならないの?」
「双方の親へのあいさつかな。そこからお互いの親同士と俺たちの話が始まって、それからの予定が決まっていく」
「小岩井さん、私実感が湧かないんだけど」
「俺もだよ。まあ、やることは決まってるんだから、一つ一つ片づけていけばいいさ」
「そうね。それしかないですよね」

「うぉーい、話は終わったかー」
ジャンボとよつばが戻ってきた。
「すまん、プライベートな話になってしまった」
「それは構わんが、明日は結局誰が行くんだ?」
「星を見に行ったメンバーじゃないのか」
「とーちゃん、えなとみうらがなー、くるまにのせてっていってた」
「じゃあ子供三人含めて全部で六人だな」
「あ、あさぎさんは……」
「お姉ちゃんは多分お友達と行くと思う」
小岩井は確認のため、綾瀬宅へ電話をした。

「やっぱり俺も車買うかなぁ」
「おー、買え買え」
「とーちゃんなにかう? しょうぼうしゃか? かっこいいぞ」
「消防車は買えないなぁ」
「私も免許取っておいた方がいい?」
「大学に合格したら取ればいいよ」
「じゃあ明日また来るからな。俺は帰るぞ」
「あ、私も帰る。おやすみなさーい」

 風香は自宅へ帰ってきた。
自室に入り、風香はベッドに横になる。
「やることいっぱいで、これから忙しくなるなー」
自分が子供でいられるのもあと少しである。
結婚すれば否応なく大人として扱われてしまう。
「私大学受かるかなー」
正直、受験勉強を含め、やるべきことの多さは、風香にとってプレッシャーとなっていた。
「でも小岩井さんもいるし、私の選んだ道だからがんばろう」
そして明日のことを考えながら、手帳に書き込む。
「小岩井さんて浴衣姿好きかな。ほめてくれたらうれしいな」
そして小岩井と二人きりの夜になることを期待する風香であった。

作品名:風香の手帖 作家名:malta