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風香の手帖

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七話 「二人の夜」



 花火大会当日の夕方、みんなは小岩井家の前に集まった。
よつばと恵那は前回と同じく浴衣を着ているが、今回は風香も浴衣である。
「風香ちゃん、浴衣にしたんだ。似合ってるよ」
「えへへ、惚れ直しました?」
「もう何回も惚れ直したよ」
もはやバカップル状態に近い。
「とーちゃんはいつもおんなじなー」
「ばか言うな。とーちゃんもやればできるんだ」
「みうらちゃんも浴衣着ればいいのに」
「私はいいよ-。動きづらいし」
「それじゃ行くぞー」
「しゅっぱーつ!」
みんなそれぞれジャンボの車に乗り込む。
一同を乗せた車は花火大会の会場に向かった。

 車の中は大騒ぎである。
「とーちゃんおなかすいたー」
「もうちょっと待ってろ」
「みうらちゃん宿題やったー?」
「まだいっぱい残ってる。自由研究はダンボ……」
恵那はあわてて、みうらの口をふさいだ。
「あー、そー言えばダンボーはどこにいるんだろ-」
「みうらんちにいる」
「花火と言ったら私ですよ。花火、空、ロマン、夢。風香る、風香」
「コイよ。おまえの嫁さんが変なこと言ってるぞ」
「そうか?」

 一行は花火大会の会場に着き、まず場所取りを始める。
運よく場所が取れたので、みんなで屋台に向かった。
「よーし今日はジャンボのおごりだ。みんな好きなものを買ってもらえー」
「ええ!? また俺かよ!?」
「すごーい。あさぎお姉ちゃんも来たらよかったのにー」
「ジャンボ、またあさぎねーちゃんに報告しといてやるよ」
「うおー、もう何でも好きなもの買ってやるぞー!」
「私もいいの!?」
子供たちはよく食べた。
しかし風香はあまり食べていないようである。
「風香ちゃんあまり食べてないけど、帯でも苦しいの?」
風香は首を振り、小岩井の耳元でささやく。
「ダイエットしてるの。小岩井さんは気にするなって言ったけど、気をつけてないと食べ過ぎちゃいそうだから」
「ああ、なるほど」
「あっ、風香ねーちゃんラブラブだ!」
「ほんとだね! ラブラブ-!」
「とーちゃんラブラブなー」
「こらー! あんたたち!」
「わーい、ラブラブー」
「おいこら、ちょっと待て!」
逃げていく子供たちを、ジャンボは追いかけていった。

 子供たちをジャンボに預け、風香と小岩井は、少し離れた人気のまばらな場所に来ていた。
「ここまで来ると、あまり人がいないんですね」
「どうしたの。何かそわそわしてるけど」
「そ、そんなことないですよ」
小岩井は風香を抱きしめキスをした。
そしてその手が、いきなり風香の胸へ向かう。
「小岩井さん、ダメ」
風香は小岩井の手をぺしぺしと叩き追い払う。
「何で?」
「人が来るから」
「来ないよ。来てもやることはみんな一緒だ」
「でも、ここじゃいや」
「じゃあどこならいいの?」
「知らない!」

 だが小岩井は片手で風香の両手をつかみ、空いた手で風香の胸に手を当てる。
「小岩井さん、お願い。浴衣が着崩れたら私困っちゃうから」
風香はもう泣きそうである。
「あははは」
小岩井が突然笑い始める。
「ごめんごめん。冗談だから。困ってる風香ちゃんがかわいくて、思わずいぢめちゃったよ」
「ひっどーい! 前にもあったけど、小岩井さんて私をいじめるのが趣味なの!?」
風香はお冠である。
「ほら、好きな娘はいぢめたくなるだろ。あの心理だよ」
「もう! 今度やったら、結婚してあげません!」
「それはすごく困るな。ちょっと調子に乗りすぎました。もう二度としません」
「わかりました。反省しているようなのでゆるしてあげます」
そして二人は笑い出した。

 小岩井は風香の浴衣姿を改めて見た。
「風香ちゃん、その浴衣自分で着たの?」
「ううん、お母さんに着せてもらったの。自分で着れるようになりたいなと思うけど」
「振袖は着たことある?」
「ないです。成人式のとき着たりしますよね。早く着てみたい」
「でも振袖って普通既婚女性は着ないから、風香ちゃんが二十歳前に結婚したら、成人式は何を着るのかなと思ったわけ」
「ええ! じゃあ私振袖着られないの!?」
「俺もよくわからないんで、お母さんに聞いてごらん」
「うん」
「大丈夫だよ。成人式しか着る機会がないってわけじゃないから。初詣とか着てる人いるだろ?」
「ああ、そうですよね!」

 風香は小岩井の肩に寄りかかる。
やっといい雰囲気になり、風香の中が幸福感で満たされていく。
(このまま時が止まればいいのに……)
小岩井に髪の毛を撫でてもらう。
「風香ちゃんの髪さらさらだね」
「小岩井さんて、長い髪の方が好き?」
「そういうわけでもないけど、風香ちゃんの髪型は似合ってると思うよ」
風香は返事の代わりに、小岩井の腕を抱きしめる。
「風香ちゃんは腕を組むのが好きだねぇ」
「だって安心するんだもん」
風香はもう小岩井のそばから離れたくなかった。

 そして花火の打ち上げが始まった。
「わあ、きれいー」
「きれいだねえ。でも風香ちゃんの方がきれいだよ」
風香はしばらく小岩井の顔を見ていたが、やがて笑い出した。
「あははは、小岩井さん本気で言ってます?」
「えーと、外した?」
「いえいえ、褒めてくれてうれしいです。ただ小岩井さんがそんなこと言うのがおかしかっただけ」
「やっぱり人のセリフじゃだめだな」

 花火は次々と打ち上げられる。
二人は花火を見ながら話をしていた。
「しばらく二人っきりの夜ってなかったからうれしい」
「そうだね、最初のデート以来かな」
「前、私が”家出”してきたとき、よつばちゃんがみうらちゃんのうちに泊まって、二人だけになったこともありましたね」
「ああ、あの時は焦ったよ。どうしたらいいかわからないから、ずっと仕事してた」
「そうだったんですか。小岩井さんの仕事が終わらないんで、私ちょっとがっかりしてました」
「じゃああの時、風香ちゃんは期待してたんだ」
「ちち違います! そんなこと言ったら小岩井さんだって、ずっと私に興味ないような顔してたくせに、えっちなことしたじゃないですか!」
「えっちな男は嫌い?」
「嫌いです!」
「でも俺がえっちじゃないと、風香ちゃん大人になれないよ?」
「それは、そのー、いじわる……」
小岩井は風香を抱きしめる。
「風香ちゃんはかわいいなあ!!!」
「そうやってごまかすんだからー」

「そろそろみんなのところへ戻ろうか」
「その前に……」
風香は目をつぶり、顔をやや上に向ける
小岩井が風香を抱き寄せると、背伸びをして風香から唇を重ねた。
「風香ちゃん、今日は積極的だね」
「だって、久しぶりなんだもん……」
風香は恥ずかしそうにうつむいた。

 二人は手をつなぎ歩いていく。
「そろそろ夏休みも終わりだし、来年の今ごろって私何してるんだろう」
「必死に受験勉強してるな」
「そうですよねー。小岩井さんとも会えなくなっちゃうのかな」
「俺はいつでも隣にいるんだから、会いたいときに来ればいいさ。それに式場の話とかしなきゃならないし、会えなくなることはないな」
「ああ、そうですよね。でも逆にプレッシャーです」
「結婚関係のことは俺に任せて、風香ちゃんは勉強優先でいいから」
「うん、ありがとう」
作品名:風香の手帖 作家名:malta