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風香の手帖

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八話 「不信」



 九月になった。
風香が通う紫陽花西高校も新学期が始まり、風香は自転車で通学し始める。
教室に入ると久しぶりに見る顔ばかりである。
日焼けした男子や髪型を変えた女子など、クラスはそれなりに変化があった。

「おはよー」
「あ、しまうーおはよー」
「大人になった割には、あまり変わりがないようだけど」
「まだ子供だもん」
「なんだ。それじゃ続きは後で話そ」
「うん」

 放課後、教室で風香としまうーが話している。
「でも風香がここまでメロメロになるとはねぇ」
「運命の出会いってやつかな」
「バカップル」
「なにぃ!」
しばらく話した後、風香は学校を出て商店街へ向かった。

 そのころ小岩井もよつばを連れて、買い物をしに商店街に来ていた。
買い物を済ませ家に帰ろうとすると、前方に学校帰りの風香が自転車を押しながら歩いている。
小岩井は声をかけようとしたが、風香の隣に男子生徒がいることに気がついた。
同じ高校だろうか、背が高く青いバッグを持っている。
風香はその男子と楽しそうに話をしているので割り込むのも悪いと思い、小岩井は声をかけるのをやめた。
よつばも気がついていないようである。
(そうだよな。風香ちゃんは学校での生活があるんだよな)
自分の踏み込めない領域に対するもどかしさを感じながら、小岩井は帰っていった。

 次の日、風香が自転車で学校から帰ってくると、小岩井が家から出てきた。
小岩井を呼ぼうとした風香は、その後から女性が出てきたので、呼ぶのをやめた。
そして自転車を止め様子を見る。
その女性は風香が見たことのない人であった。
長い髪と真っ赤な口紅がよく似合っている。
(わぁ、美人……)
二人はにこやかに話をしている。
女性はピンヒールを履いており、門のところに段があるため、小岩井は女性の手を取り支えた。
風香はそれ以上見ていられなくなり、来た道を戻っていった。

「何よ、何よ、小岩井さんたら! 美人にデレデレしちゃって! しかもあんなにやさしく手を取ってあげるなんて、私にもしてくれたことないじゃない!」
それは風香が生まれて初めて経験する感情――嫉妬――であった。
小岩井からは十分やさしくしてもらっているはずだが、今はそんなことは考えられない。
風香は先ほどの二人の姿を思い出す。
「小岩井さんと大人の女性が並ぶとあんな感じなんだ。私と並んでるときはどういう感じなのかなあ」
そんなことを考えながら、風香はあたりを自転車で走っていた。

 その後風香は家に帰り、制服のままベッドへうつぶせに横になった。
冷静になって考えると、あの美人は仕事関係の人かもしれない。
「そうだよね。小岩井さんにそんな甲斐性ないよね」
しばらくして携帯が鳴った。
「あ、小岩井さんだ…… はい、風香です」
「小岩井だけど、風香ちゃん、今度の土曜の午後空いてる?」
「ええ、大丈夫です」
「ジャンボの車に乗せてもらって家具を買いに行こうと思うんだけど、君にも見てもらいたいんだ」
「いいですよー」
「じゃあ二時によろしく」
「は-い、お願いしまーす」
電話を切ると風香に笑顔が戻る。
「わーい、お出かけ、お出かけ」
さっきまでの嫉妬はどこかへ行ってしまっていた。

 土曜日の午後、風香は小岩井親子と一緒にジャンボの車で出かけていった。
「とーちゃんきょうはアイスかうか?」
「アイスは買わない。タンスを買う」
「えー、俺もアイス買ってくれよー」
「おまえは自分で買え」
「くすくす、小岩井さんとジャンボさん仲いいですね」
「風香ちゃん、嫉妬しちゃった?」
「しませんっ。ていうかそういう仲なんですか?」
「話を振った俺が悪かった。想像させないでくれ」
「とーちゃん、プリンでもいいぞ」
「プリンでもいいか。ちょっと迷うな」
「よつばちゃんのお父さん、ほんとにプリン好きなんだねー」
「とーちゃんはプリンだいすきマンだ!」

 家具センターについた四人は、中を見て回った。
「これはどうかな」
「あ、いいかも。あとこんなのもありますけど」
「えーと、よつばどうだ?」
「へん!」
「ええ!?」
しばらく探してみたが、気に入るものが見つからない。
「タンスを手作りってわけにはいかないからな」
「また別なところで探すか」

 結局買うのを保留にして、途中でアイスを食べる。
「ふーか、アイスうまいな?」
「おいしいねー。ジャンボさん、うちはあさぎお姉ちゃんがアイス大好きなんですよ」
「そうなのか! それじゃあさぎさんにアイス一年分送れば!」
「冷凍庫にそんなに入りませんて」
「よつばがもらう!」
「おまえそんなに食えないだろ」
一行はひとしきり話をした後、帰ることにした。
「じゃあそろそろ行くか」
「あ、私トイレ行ってきます」

 トイレから戻る途中、風香は高校生らしい二人組から声をかけられた。
「お姉さん、ちょっと付き合ってくれないかなー」
よく見ると先日のデートのとき、海で風香をナンパしようとした二人組である。
「へっへー。こないだ海で見かけたときにつけてきちゃった。なんか俺らのこと笑ってたよね。あんとき一緒にいたおっさん誰?」
「恋人です」
「うそー。どう見ても恋愛関係には見えないんだけどー」
「どう思われようと、恋人ですとしか言えません」
「でも俺らが通報したら、あのおっさん逮捕されちゃうかもねー」
「え?」
「事実関係なんかほとんど調べないし、痴漢と一緒だよ。捕まったら終わり」
「そんな……」
「じゃあどうすればいいかわかるよねー。一緒に来てくれるかなー」

「ちょっと待ておまえら! 何適当なこと言ってるんだ!」
「小岩井さん!」
「ありゃー、おっさん登場だよー。どうする?」
「こいつ弱そうじゃん。やっちまおうぜ」
二人組は小岩井に殴りかかった。
二人を相手にするには無理があり、小岩井は、叩きのめされた。
「小岩井さん!!」
「ほんとだ。弱えー」
「さてお姉さん、おっさんも消えたし行こうか」
「いいや、まだいるぜ」
二人組の頭上から声が聞こえる。
二人が恐る恐る振り向くと、やたら背が高くがっしりとした男が立っていた。
ジャンボである。
「でか!」
驚いている二人組の襟を掴み、ジャンボは投げ捨てる。
二人組は気絶した。

「ジャンボさん、ありがとうございます!」
「風香ちゃん、コイの様子を見てくれ」
「はい!」
ジャンボは気絶している二人組の生徒手帳を探す。
「へぇ、こいつら律義に持ち歩いてるぜ」
そして二人組の生徒手帳を携帯で写した。
一方、風香は小岩井の顔についた泥を、ハンカチで拭いてやっている。
「小岩井さん、大丈夫ですか?」
「怪我の方は……大丈夫だ。それより……君を守れなくてすまない」
「そんな。小岩井さんは勇敢にあの二人に立ち向かってくれました」
「でもそれだけじゃだめなんだよ。自分の彼女も守れない男でまったく情けない」
「そんなことないです!」
小岩井はよろよろと立ち上がった。
「ごめん……ちょっと先帰るよ……」
追いかけようとする風香を、ジャンボは止めた。
「これは男のプライドの問題だからな。今日はそっとしておいてやってくれ」
作品名:風香の手帖 作家名:malta