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風香の手帖

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九話 「破れた手帳」



 次の休日、小岩井は風香と食事に来ていた。
市内でも有名な精進料理の店で、外から見ても風格がある。
「わー、すごい! 私こんな立派なところ初めて来た!」
「風香ちゃんにはさんざん迷惑をかけたからね。罪滅ぼしに今日は何でもおごるから」
「何でもいいんですね。何にしようかなー」
「いや、あの、一応常識的な範囲でね」
「もう体の方は大丈夫なんですか?」
「二日酔いは大丈夫だ」

 二人は精進料理のコースを頼んだ。
やってくる料理を食べると結構なボリュームである。
「精進料理ならカロリー大丈夫ですよね」
「食べ過ぎれば同じだと思うけどね」
「ううー、食べ盛りなのにー。しかもこれおいしいしー」
料理を食べ終わり店を出ると、小岩井は風香に喫茶店にへ連れていかれた。
「ここでぜひ頼みたいメニューがあるんです」
風香はパフェをオーダーした。
出てきたのはやたらに大きく、やたらに派手なものであった。
スプーンが二つ付いている。
「私、恋人が出来たら、絶対このパフェを二人で食べようと思ってたの。夢が叶っちゃった。小岩井さん、甘いものって嫌いじゃないですよね。はい、アーン」
小岩井はさすがに照れて躊躇したが、風香に促され口を開ける。
すると風香はうれしそうにスプーンを小岩井の口に運ぶ。
「嫌いじゃないけど、さすがにこれは甘すぎるよ」
「だって恋人用のパフェだもん。甘いに決まってるじゃないですか。それに完食できなかったら愛が足りないことになるんですよ」
今度は風香が口を開け、小岩井がパフェを食べさせる。
「んー、おいしーい」
「風香ちゃん、幸せそうだね」
「うん! だって小岩井さんと一緒にいられるんだもん。小岩井さんは私といて幸せじゃないんですか?」
「いや、風香ちゃんを見てるだけで幸せになれるよ」
「えへへ、うれしいな」
二人は話をしながらパフェを完食した。

「風香ちゃん、こんなに食べてカロリーオーバーじゃないの?」
「甘いものは別腹ですよ」
これがなければもっとすばらしいプロポーションだろうにと小岩井は思ったが、口には出さなかった。
そして二人は家まで戻り、いつものように玄関の前でキスを交わす。
「小岩井さん、ご馳走さまでした!」
「いや、こないだのお詫びだからね」
「また行きましょうね。おやすみなさい!」
「うん、おやすみ」
二人はそれぞれの家へ入っていった。

 ある日小岩井がよつばと買い物をしていると、自転車を押して歩いている風香がいた。
その隣には青いバッグを持った背が高い例の男子生徒がいる。
あれから何回か二人の姿を見かけ、多少嫉妬もしたが、小岩井はそれよりもなぜかお似合いだと思ってしまった。
小岩井は自分と風香が並んだ姿を思い浮かべてみるが、とても自分が風香に似合うとは思えない。
「そうだよな。風香ちゃんかわいいから、ボーイフレンドぐらいいるよな」
やはり女子高生には同じ高校生とのカップルがいいのではないか。
今まで無意識に封印してきた思いが、頭をもたげてきたのであった。

 家に帰ってきた小岩井は、机に向かい考えた。
自分はなぜ風香と付き合おうと思ったのか。
いつもの自分なら、まず女子高生と付き合おうとは思わないはずである。
ではなぜ風香ならよかったのか。
それはやはり小岩井にとって、風香があまりにも魅力的だったからである。
風香に魅かれた自分を抑えられず、いつも一緒にいたいと思った。
しかしその風香を自分は守れなかった。
そして隣に並んでも、風香の若さには似合いそうもない。
自分と一緒になって、はたして風香は本当に幸せになれるのだろうか。
再びその疑問に行き当たる。
未来のことなど誰にもわからない。
だが小岩井は風香を大事に思うあまり、臆病になるのであった。

 この日以来、小岩井は何となく風香を避けるようになった。
風香には会いたい。
しかし自分では風香を幸せにできそうにない。
そのジレンマから、小岩井は口数が減っていった。

 一方、風香も小岩井と話ができず、不安に思っていた。
「最近小岩井さんどうしたんだろう。電話もくれないし、家に行っても忙しいの一点張りだし」
下に降りると、よつばが来ていた。
「よつばちゃん、お父さん元気?」
「とーちゃんまいにち、いそがしいいそがしいゆってる」
「ふーん、本当に忙しいんだ。でも私にぐらい話してくれてもいいのに」

 それから数日後、風香が学校から帰ってくると、小岩井が出かけようとしていた。
「あー! 小岩井さん!」
「久しぶり」
久々に小岩井に会い、風香はなぜかドキドキしてきた。
「小岩井さん、お買い物ー?」
「そうだよ」
「待って! 私も行くから!」
風香は自転車を家に置き、小岩井について行った。
「久しぶりに小岩井さんに会えてうれしい! まだ忙しいんですか?」
「うん、ちょっとね」
「呼んでくれれば、私お手伝いに行ったのに。今日から行きましょうか?」
「いや、風香ちゃんはもう二学期が始まっていたから、お願いするのに気が引けてね」
「そんな。私に気を遣わなくてもいいのに」
「今までよつばと二人で何とかしてきたし。もう少し頑張ってみるから、風香ちゃんも勉強頑張って」
「はい。じゃあ何かあったら私に言ってくださいね!」
「うん、ありがとう」

 そして風香は小岩井と腕を組む。
「こうして歩くのも久しぶり。小岩井さんに会えなくて、私寂しかったんですよ。小岩井さんは寂しくなかったんですか?」
「いや。でも仕事だから」
「そうですね。だけど無理しないでくださいね」
「ああ」

 二人は買い物を終え、家に帰っていった。
風香はまたうれしそうに腕を組んでくる。
その笑顔に小岩井の心は痛んだ。
途中すれ違った男たちの話が聞こえる。
「女子高生が相手かよ」
「いや、隣のおっさんを見ろよ。ありゃどう見ても」
風香は男たちをにらみつけ、ため息をつく。
「あーあ。どうしてあんなことを言う人がいるんだろう。ねえ小岩井さん」
だが小岩井は組んでいる風香の腕を解いた。

「風香ちゃん、制服で俺と歩かない方がいい」
「……小岩井さん?」
「今のように変な噂が立って困るのは君の方だ」
「小岩井さん……本気で言ってるの?」
「ああ。俺みたいなおっさんが君の隣にいたら、世間はさっきの男たちのように考えるだろう」
「小岩井さん。小岩井さんは私の気持ちより、他の人の方が大切なの? 私たちそんな変な関係じゃなくて、恋人同士でしょう?  恋人と腕を組んで歩いてちゃいけないの?」
「いやそうじゃなくて、君は同じ高校生と付き合った方が幸せじゃないかと」
「小岩井さんひどい! 私に告白しておいて、今更そんなこと言うなんて!」
風香は駆けだしていった。
いつの間にか雨が降り出している。
「風香ちゃん、俺は……」
しかし小岩井は追うこともできなかった。
作品名:風香の手帖 作家名:malta