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風香の手帖

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 風香は雨の中を、あてもなくさまよっていた。
制服はもうすっかり雨で濡れており、しかも途中で水たまりに足をとられ転んでしまった。
制服が泥で汚れ、バッグがいつの間にか開いていたため、中身が道に飛び出している。
(もう……最低……)
風香は道に落ちた物を拾い始める。
(あっ、手帳……)
道端に落ちている手帳を拾おうとしたが、手帳は走ってきた車に轢かれ、破れてしまった。
(小岩井さんに買ってもらった手帳が……)
雨の中、風香の目から涙がこぼれ出す。
(もう、お終いなの?)
風香は破れた手帳を持って、立ちつくしていた。

 それから風香は熱を出し、三日間学校を休んだ。
ずぶ濡れで帰ってきた風香を見て、家族と遊びに来ていたよつばは心配したが、風香は何も答えなかった。
次の日、ジャンボに配達してもらった花を持って、よつばが綾瀬家へやってきた。
「かーちゃん、ふーかだいじょぶか-」
「今寝ているんだけど、まだ熱があるのよ」
「これおみまいなー」
「まあ、きれいなお花。よつばちゃんありがとう。お父さんは?」
「とーちゃんいそがしいから、よつばがかわりにきた」
「あら、そうなのー」
「じゃあかえる。さよならー」
よつばは帰っていった。

 そこにあさぎが降りてきた。
「小岩井さんが自分で来ないなんておかしいわね」
「確かにそうかもしれないけど、締め切りとかで忙しいんじゃないの」
「いくら忙しくても、隣の家なんだから見舞いにくらい来れるわよ」
「それはそうだけど」
「風香があんな風になるぐらいだから、これはけんかってレベルじゃないようね。小岩井さんに聞いた方がいいかも」
「とりあえず、風香が良くなるのを待ってみたら?」

 三日経ち、風香の熱はやっと下がった。
風香は起き出し、下に降りていった。
「お母さん、ご飯ー」
「風香、大丈夫なの?」
「お腹が減るぐらいには大丈夫みたい」
「普通のご飯でいいの?」
「うん、普通でいい」
風香は久しぶりにおかゆ以外のものを食べた。
「お母さん、私の部屋のお花誰がくれたの?」
「小岩井さんよ。持ってきたのはよつばちゃんだけれど」
「え? 小岩井さんが来てくれたんじゃないの?」
「何か小岩井さん忙しいから、よつばちゃんが代わりに来たんだって」
「そう、小岩井さん来てないの……」

 その夜、風香は小岩井宅へ電話をした。
「もしもし、小岩井です」
「あっ、風香です。小岩井さん、お花ありがとうございました」
「こっちこそ立て込んでて、行けなくてごめん。体は大丈夫?」
「ええ、今日から普通のご飯を食べ始めています。 ……それで、あの、今度の休日小岩井さんともう一度話し合いたいんですけど、いいですか?」
「ああ構わないけど、俺が言いたいのは冷却期間を置こうということだから。俺たちは急に仲良くなりすぎた。そしてそれに浮かれ、その先にある落とし穴に気がつかず俺は落ちた。もちろんそれは君のせいじゃない。俺がもっと気をつけるべきだった」
「私何か悪いところあります? あれば直しますから」
「いや、君は何も悪くない。今回のことはすべて俺の責任だ。だから一人で考える時間が欲しい。そういうことだ」
「じゃあもう小岩井さんに会えないの?」
「考えた結果次第だ。結果は君に最初に伝えるよ」
「小岩井さん、私小岩井さんが考えてることがわからないの」
「すまん。俺にもよくわからないんだ。それじゃ早く元気になって」
「小岩井さん、小岩井さん!」
だが電話は切れた。
風香は涙があふれてきた。
「こんなに好きになったのは生まれて初めてなのに、お別れしなくちゃいけないの?」
風香のすすり泣く声は一晩中続いた。

 それから風香は学校に通いだした。
だが毎日放心状態で机に座ったままである。
しまうーや友達が心配して声をかけるが、力のない笑顔を見せるだけであった。
そしてそれは家でも変わらない。
日増しに元気がなくなっていく風香を、家族は心配した。
「あさぎ、あの子やっぱり小岩井さんと何かあったの」
「それが聞いてはみたんだけど、何にも言わないのよ」
「風香お姉ちゃんかわいそう。ご飯もあんまり食べてないし」
「それじゃ私が行って、小岩井さんに事情を聞いてくる」
「これは風香と小岩井さんの問題だから、あまり深入りしない方がいいんじゃない」
「でも、お母さんそれじゃ」

「こんにちわー!」
そのときよつばがやってきた。
「よつばちゃん!」
みんなで大声を出してしまう。
風香の母がよつばに聞いてみる。
「よつばちゃん、お父さんてどうしてる?」
「とーちゃんげんきない。きのうもプリンいらないっていったから、よつばがふたつたべた」
「よつばちゃんのお父さん、風香お姉ちゃんとけんかしてるの?」
「ふーかこないから、とーちゃんにけんかしたかってきいたら、とーちゃんなにもいわなかった」
あさぎが考え込んでいる。
「よくわからないけど、小岩井さんも重傷みたいね」
「ふーかいる?」
「二階にいるわよ」

 よつばは風香の部屋に入っていった。
中では風香がベッドに座りぼんやりしている。
「ふーか、よつばんちなんでこない? とーちゃんとけんかしたら、なかなおりしろ?」
「よつばちゃん……」
「ふーかこないと、とーちゃんもげんきないからはやくこい?」
「よつばちゃん、私もうよつばちゃんちに行けないかもしれないよ……」
風香はよつばを抱きしめ涙を流す。
「ふーか、なんでなく。おとなはなくな」
「大人じゃない。私は大人じゃないよ……」
あふれだした想いで、風香は泣き続けた。

作品名:風香の手帖 作家名:malta