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ハー・リーズン

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 藍色の空にたなびく雲を赤く染め上げ、最後の輝きを見せながら西太洋へと落ちていく太陽を横目に、実に久しぶりにボルカノは、北に位置するウンディーネの館の扉を叩いた。
「はい……」
 応対に出たウンディーネの弟子は、長い間対立していた南の朱鳥術士とその後ろに居並ぶ二人の弟子の姿を見て、さっと顔をこわばらせた。
「突然の往訪すまない。南のボルカノだ。主人はいるかね?」
 その声が聞こえたのか、煙管を持って部屋の中で弟子たちに指示を出していたウンディーネが振り返った。館の中は引越しかと思うような散らかりぶりである。おそらく、バンガードに向かうための準備をしているのだろう。
「あーら、珍しい方がお見えね」
 そう言うとしなやかな腰つきでボルカノたちを迎え出た。
「こうしてお目にかかるのは死者の井戸の戦い以来かしら」
 応対に出た弟子を下がらせると、訝るように目を細めて扉に体を持たれかけさせる。
「どういうご用件かは知らないけれど、今、取り込み中で散らかっているの。ここで構わないかしら?」
 ボルカノは油断のない目つきでウンディーネを見つめた。
「小耳に挟んだのだが、魔王の盾の奴らにバンガード発進の協力を承諾したとか」
「ああ、そのこと」
 ウンディーネは優雅に煙管をくわえて、ふかぶかと吸い込んだ。
「世界を守るためにぜひともあなたの力をお借りしたいと言われちゃ、協力しないわけにはいかないでしょう?」
「理由はそれだけか?」
 拳を握り締めてボルカノは、執拗に言った。
「おまえがそんな正義感だけで動くはずはない。何か別の理由があるんだろう」
 ウンディーネは高々と眉を上げてボルカノを一瞥し、ボルカノの後ろで状況を見守っていた二人の見習朱鳥術士は顔を見合わせた。
 話を切り出すにしても、もう少し話し方があるだろう。ウンディーネが関わってくると、見境がなくなるのはいつものことだが。
「ずいぶんなお言葉ね」
 そう言って、紫煙を彼の顔に吹き付ける。嫌な顔をして顔をそむけたボルカノにウンディーネは続けた。
「たとえそうであっても、あんたにそれを話す義理はないわ」
 つんと顎を上げて見下すようにボルカノを見つめる。
「お話がそれだけでしたら、お引取り願える? そういう理由でこちらは色々と忙しいの」
 そう言って、扉を閉めようとしたウンディーネにボルカノは慌てて言った。
「ま、待て」
 その瞬間、ウンディーネはぱっと顔を輝かせた。
「あら、今から宿へ?」
 振り返ると、魔王の盾を手にした例の旅人の一行が、ボルカノたちの後ろにいた。落ち着いた物腰の長身の若者と、まっすぐな明るい瞳を持つ若者だ。
 年下の若者が答える。
「はい、トムと道具屋に行っていた帰りです」
 もう一人の眼鏡をかけた若者が、ウンディーネの前にいるのがボルカノだと分かったのか一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに理知的な深いまなざしでウンディーネを見つめながら微笑む。
「準備は進んでおられますか?」
 ボルカノには見せたことのない愛想のよい笑顔を浮かべながらウンディーネはうなずいた。
「ええ、明日には出発できますわ」
 若者たちとウンディーネの間に立った格好のボルカノはそのやり取りを見つめて、それからため息をついた。
 ――理由は、これだ。
「では、また明日伺います」
 長身の若者は如才なくボルカノにもかすかな会釈をして、仲間とその場を後にした。
 すっかり日が落ちて、薄暗くなった街へと消えていく若者たちをうっとりと見つめているウンディーネに、ボルカノは憎々しげに言った。
「そういうことか」
 ボルカノが目の前にいたことを忘れていたのかウンディーネは慌てて彼に目を向け直したが、嬉しさを押さえきれないという風に顔には笑みが残っている。
「そういうことって?」
 うんざりとため息をつきながらボルカノは言った。
「奴らだから、だろ? おまえが行く理由は。特にあの長身の眼鏡の若造が、おまえの好みだろう」
 びっくりしたようにウンディーネは目を見開き、それから艶やかな笑みを浮かべながらボルカノを見つめた。
「さすが、長い付き合いだけあるわね。そうなの、今のうぶな感じの青年もいいし、彼らの長みたいな金髪の方の高貴な魅力も捨てがたいわね。白髪の頑固そうなじじいは論外として、巻き髪の妖艶な殿方の麗しさにもすごく惹かれるんだけど……でもやっぱりあの眼鏡の彼よねえ。線は細いんだけれど、芯はしっかりしていそうで、それにちょっと困ったような笑顔がたまらないっていうか、まさに、あたくし好みっていうの? 雰囲気は暖かいんだけど鼻筋が通っているせいかしら、隙のない怜悧な横顔がまたいいのよねえ」
 放っておけばいつまでもしゃべり続けていそうなウンディーネにボルカノは背を向けて歩き出した。
 付き添っていた二人の弟子も慌てて後を追う。
 吐き出すようなボルカノのつぶやきが聞こえた。
「あいつは昔から、ああいう女なんだ」
 弟子たちは足を止めることなく、そっと顔を見合わせた。
(ボルカノ様もかわいそうに……)
(なんか、切ないですよねえ……)
(……切ないよなあ)
(粘着質な性格がよくないんでしょうか?)
(そのくせ、情熱的っていうのか、性格は激しいだろ? 想いが届かないからっていうんで一時は倒させようとまでしたんだから)
(……屈折してますよねえ)
 声には出さずに、目と目で伝え合う。
 死者の井戸の辺りは街の光も届かず、暗闇がたちこめている。足元を照らそうと指先に灯した小さな炎が、北と南をつなぐ通路の横の水面に映った。
 ゆらゆらとたゆたう暗い水と赤い炎は競演するように幻想的な美しさを見せたが、二人の弟子はそれに気づかず、強張った師匠の背中を見つめて深いため息をついていた。

 ──終──

作品名:ハー・リーズン 作家名:しなち