必殺仕事人 in ヴォルケンリッター 特別読切
二日後、廃棄都市区画
「こちらが私の護衛の一人で、マイケル・モーガンさん、元アメリカの大統領警護官、シークレットサービスの主任をしておられた方よ。
今から1時間、あなた達と軽い模擬戦をして頂きます、彼は普段は拳銃を得意としているけれど、今日はライフル銃です。
「彼のペイント弾に当たればあなた達の負け、あなた達は彼に魔力弾かペイント弾を当てれば勝ちです。質問は?」
「一つ宜しいでしょうか?
魔力弾以外にどんな魔法を使っても宜しいのでしょうか?」
「いいわよ、別に、どんな手を使った所で彼に勝てはしないのだから」
そして、マイケルがビル群の中にその姿を隠して5分、試合が開始された。
ティアナが、自分のデバイスを構えて路地を歩いていく、曲がり角まで来ると立ち止まってそっと曲がり角の向こうを覗く、
同じ事を繰り返して3回目、僅かに顔を覗かせた瞬間、その額にペイント弾が撃ち込まれた。
だが、そのティアナは煙の様に消えてしまう。
幻術によるダミーだった。
そう、ティアナは幻術で何人かのダミーを作り出していたのだ。
そして銃声のした方へ徐々に包囲網を狭めていく、一方、ルネッサは慎重だった。
曲がり角の安全は手鏡で確かめて、一瞬で走り抜ける、時々後ろを振り向いて後方と上からの狙撃を警戒していた。
マイケルは思った、「こちらのお嬢さんは、相当戦場慣れしている」と。
だが彼女にも油断はあった、曲がり角など、建物の陰は気にしていた物の、窓などは警戒していなかったのだ。
そう、建物の反対側から、窓を通して狙われていたのだ。
銃声がした時、彼女の頭にペイント弾が命中していた。
これで、ルネッサはリタイアした。
残るのは、ティアナだけだ。
マイケルは、いつの間にか建物の6階にいた、上から姿を隠しながら下の通りを観察していた。
「数が多いな、分身はこれだから厄介だ」
彼がそうこぼすのも無理はない、ティアナは幻術で少しずつ分身を増やしながら彼を捜していたのだ。
既に20人近くいる。
だが、彼もプロである、徐々にその弱点を見破りつつあった。
ティアナの分身には影がある、だが、その影が常に一定方向だったのだ。
如何にリアルに分身を作ろうと、リアルさにこだわるあまり影のコントロールまで気が回らなかった様だ。
スコープを通して観察すると、余計な物が見えない分、弱点を見つけやすいというメリットもある様だ。
彼がトリガーに指をかけ、ゆっくりと引き絞った。
銃声がした時、ティアナの額にペイント弾が命中していた。
ティアナは信じられなかっただろう、まさか幻術を見破られるとは思っていなかったのだから、だがそれが現実であった。
これがプロの世界、一度狙われたら決して逃げる事の出来ない恐ろしさである。
「痛った~、ペイント弾て当たると結構痛いのね」
「どう、これで判ったでしょ?その道のプロと戦う事が如何に危険かが?
マイケルさんから見て二人はどう見えましたか?」
「まるで成ってないな、まず注意力不足、そして常に自分が狙われている事を自覚していない。
これでは、いくつ命があった所で足りないよ。
まあ、こちらのお嬢さんは随分戦場慣れしていたみたいだし、あちらのお嬢さんの分身というアイディアは決して悪くなかった。
ただ……アレは切り札だったんだろう?その切り札の効果がある内に、相手を仕留められなければ、やはり死ぬ事になる。
まだまだ経験が足りないな」
二人には返す言葉もなかった。
「それと、もう一つ、今の私では正確に当てられる距離は300mが限界だ。
1km 狙撃を成功させると言う事は途方もない腕の持ち主だ。
今の二人ではと言うより、管理局で奴に近づける人間なんて多分居ないだろう、世界が違うんだ」
「世界が違う」言葉の重さは二人に伝わった様だ。
「さてと、まあラルゴの件は先送りという事で、あなた達には罰ゲームです」
連れて行かれたのは、フェイトの所だった。
「あ、そこの書類お願いね」
二つの机の上に堆く積み上げられた書類の山、評議会派の取り調べ調書の山であった。
「締め切り期限は三日後の夕方だから、それまでにお願いね」
調書を纏めるという仕事、しかも膨大な量である。
まさか、罰ゲームでこんな物が待っていようとは思わなかっただろう。
本当の事を言えば、ティアナは少しでも早く手柄を立てて、少しでも出世したかっただけなのだ。
でも、いきなり躓いた、更にはこんな罰ゲームまで貰ってしまって……ルネッサも良い迷惑だった。
お互い、文句を言いながら書類を片付けていく、これが二人の日常になっていく切っ掛けだった。
作品名:必殺仕事人 in ヴォルケンリッター 特別読切 作家名:酔仙