はいいろのゆび
菊の泊まる部屋に案内し、とりあえず荷物を置いた。
菊は愛犬を床におろし、待っててくださいね、といって急いでアーサーの後を追いかける。
「よう、アーサー!今日も眉毛が太いな~」
アーサーが今一番会いたくない奴に会ってしまった。廊下の曲がり角からこちらに向かって
来る奴は、菊を見ると気持ち悪い笑顔を浮かべた。
「こちらの可愛いマドモアゼルはどなたかな?俺はフランシス。
良かったら麗しい貴女のお名前を教えてくれないかな?」
そう言って奴は菊の手を取る。アーサーが口を開くより前に、菊はその手を振り払った。
「わ、私は男です!」
菊は顔を真っ赤にして言った。心なしか、頭からポコポコと蒸気が出ているように見える。
「え?可愛いからてっきり女の子だと思ったよ~」
「か、可愛い!?」
「ま、でも君ならお兄さんイケちゃうかも。どう?今晩一緒に食事にでも…」
「ふざけんな、髭!菊はお前みたいな奴と付き合ってる暇なんかねぇんだ!」
「へぇ~菊ちゃんっていうの。名前も可愛いね。」
「黙れ、髭ワイン!今から仕事の話をしなきゃなんねぇんだ。さっさとどっか行って、
海に飛び込んで死んで来い。」
「え?菊ちゃんここで働くの?もしかして菊ちゃんも能力者?」
「人の話を聞けぇ!」
何を言っても無駄だだと判断し、フランシスも一緒にアーサーの部屋に向かう。
ドアを開け、アーサーは部屋で一番存在感を放つ木製の机に向かい椅子に座った。
菊とフランシスもその手前にあるソファに座る。
「で?お前は何で菊ちゃんを連れて来たの?」
「その話を今からするところだ!邪魔しやがって!」
「あの…今更なのですが、ここは何処なんでしょうか?何かの施設ですか?」
「はぁ?お前ここが何処かも教えないで連れて来たの?」
「ちっ、ここはHGFの本部だ。」
「HGFって、国家園芸促進保障協会ですよね?何でそんなところに私を…?」
「表向きはな。だが本当はこの世界の植物を護るための国家特殊部隊だ。」
「国家特殊部隊?」
「俺たちは皆、緑の指をもっている。植物は俺たち生命の源だ。
そんな植物を自在に操れる俺たち能力者にはこの能力を使う上で、規定があるんだ。
いくつかあるんだが、要約すると…」
「“能力を私利私欲のために使うな”ってね。みんながみんな、好き勝手に
能力を使うと戦が起こるからね。」
「そうだ。だが、それを良しとしない、反対している連中がいる。
そいつらは、能力者を集めて世界中の植物すべてをコントロールしようとしているんだ。
そうすれば、そいつらは世界を自分たちの思う通りに動かすことが出来るからな。
だが、そんなことをすれば自然の均衡が崩れてしまう。
それは、絶対阻止しなきゃいけない。」
アーサーは窓枠に肘をつき遠くを眺めた。
「奴らにとって俺たちは、かなり目障りな存在ってわけ。」
「それだけじゃない。
昨日、俺がお前の庭でユニコーンを召喚したのを見ただろう?」
アーサーが菊に視線を戻して問う。
「あぁ、はい。」
「あれは、俺の精霊で能力者には皆一人に一つずつ自分たちの庭に宿る精霊がいるんだ。
姿形や能力は様々だが、俺たちは植物が生えている庭であればどこからでも自分の精霊を
召喚することが出来る。」
「因みにお兄さんの精霊はピエールっていう鷲だけどね。」
「誰もお前の精霊なんて聞いてねぇよ!
まあ、それで俺たちは精霊のもつ個々の能力を使って戦うことが出来る。
ここは精霊を使って奴ら、Lokiに対抗するための特設部隊なんだ。」