はいいろのゆび
Episode 5
「お、菊ちゃんおはよう。前、座っていい?」
「おはようございます、フランシスさん。どうぞ。」
「ここの食事はどう?」
「はい、とても美味しいです。」
「そう、よかった。実はここのレシピはほとんど俺が考案したものなんだ」
「え、そうなんですか?」
菊はわずかに目を見開いただけだったが、内心はとても驚いていた。
昨日は、目まぐるしく変わった環境の変化についていくのが精いっぱいで、
正直あまり味わって食べていなかったが、今朝の朝食は昨日より幾分か落ち着いて
とることが出来た。
三食お米派の菊には、朝からパンというのは少し抵抗があったがパンはとても美味しく、
備え付けのサラダもドレッシングもしつこくなく、調和していた。
その他にも希望で様々な料理がつけられたが、食べきれる自信がなかったため、
野菜スープのみもらった。
「有名なシェフがつくっているのかと思ってました。」
菊がそういうと、フランシスは目を細めた。
「可愛いなぁ、菊ちゃんは。そう言ってもらえると嬉しいよ。
アーサーなんかの庭師にならないで、俺の庭師にならない?」
「何勝手な事言ってるんだ。そのヒゲ剃ってやろうか?菊、俺とはぐれるな。
こんな奴といるとヒゲが移るぞ。」
フランシスがテーブルを挟んで、菊に詰め寄ったところでアーサーが自分のトレーを
ガシャンッと置きフランシスの隣に座った。
菊はあまりに美味しそうなメニューについ夢中になってしまい、アーサーを見失って
しまっていたので、ほっとした。
「お兄さんの髭はおしゃれなの!お前の無法地帯の密林眉毛とは違うんですぅ!」
「キモいんだよその喋り方。それに俺の眉毛は紳士の証だ。」
「紳士?お前が紳士なら、俺は王子だな。大体お前の学生時代からよくそんなことが…」
「あぁ?」
「いえ、何でもありません。」
「ふー…。それで菊、この後俺の庭に案内するから準備しておけ。」
「は、はい。」