はいいろのゆび
アーサーの庭は薔薇園だった。手入れが行き届いていて、葉は蒼く瑞々しい。
まだ、蕾のものが多いが今咲いている小さい薔薇は生き生きとしている。
「あと1ヶ月もすれば、ここ一体薔薇で埋め尽くされる。」
「…アーサーさんは本当に薔薇がお好きなんですね。」
「まあな。俺の得意な花でもあるし。」
「緑の指でも咲かせるのに、得意不得意があるのですか?」
「あぁ。フランシスは百合、アルは確かアイリスだったな。」
菊は触らないように蕾に近づき、じっと見つめた。
「早く綺麗なお顔を見せて下さいね。」
そう言ってほほ笑んだ菊の横顔は、ここの地と相まってとても幻想的に見える。
「しかし…薔薇は世話が大変難しい花ですし、私に出来るでしょうか。
万が一枯らしてしまったら…」
「大丈夫だ。俺もなるべく顔をだすようにするし、分からないことがあったら、
何でも聞いてくれて構わない。俺の部屋にも本がたくさんあるからいつでも
貸してやる。何よりお前が薔薇に対して誠実な気持ちで接してやれば、奴らはそれに
必ず答えてくれる。お前が枯らすことは絶対にない。」
「でも、薔薇は繊細ですし…」
「繊細だが、その分コミュニケーションがたくさん取れる花なんだ。
心配すんなって。俺の目に狂いはない。」
そうは言われたものの、やはり不安は拭えない菊だったが一度引き受けた仕事である。
それも、こんな綺麗な庭の世話をするなんてそう滅多にあることではない。
菊は、覚悟を決めて顔を上げアーサーをしっかりと見た。
薔薇の葉と同じく碧いその瞳は、菊をまっすぐとらえている。
「出来る限り精一杯頑張ります。」