はいいろのゆび
「べ、別にお前のためじゃない。お前には秘書の仕事もやってもらわなきゃならないし、
こことの行き来にいちいち俺が付き合うのは不便だと思っただけだ。」
アーサーは菊から顔を背けて口早に言った。
その耳が真っ赤に染まっているのを見て菊は、分かりやすい人だなぁと思いクスクスと
笑った。
「な、何が可笑しい?」
「いえ、アーサーさんは可愛らしい方だなぁと思いまして。」
「か、可愛い?バ、バカ!そんなわけ、むしろお前の方が…」
「へ?」
「…っ!いや、何でもない!」
その全てを吸い込み無にするようなオニキスの瞳がまっすぐとアーサーを見やると、
心のうちを覗かれてるようで、アーサーは再び顔を背けた。
「とにかく、今日はもう庭の世話はもういいから帰って雑用をしてくれ。」
「あ、はい。」
アーサーは来た時と同じように菊の手を取りユニコーンの方を向いた。
「しばらく、俺は忙しくなって来れなくなるが、代わりに菊が来るから。
菊のこと、頼んだぞ。」
「我らを元の世界へ!」
また視界が明るくなり、菊が気づいた時にはもう狭く薄暗い部屋の中にいた。
部屋に着くとアーサーはすぐに手を離し、自分の仕事部屋へと向かう。
あまりの幻想的な経験に夢だったのかと思い、左手首に触れるとそこにはしっかりと
銀輪に蔓の巻かれた赤いバラの花弁が咲くブレスレットがあった。
菊は何となくその蔓をなぞりひっそりと微笑んだ。