はいいろのゆび
「おい菊、そのブレスレットよく見せてくれよ。」
「え?はぁ…どうぞ。」
菊は左腕を前に出す。ギルベルトとフランシスはまじまじとその腕に嵌ったブレスレット
を見た。
「へぇ~思ったより精巧で綺麗だな。」
「お二人は見たことないんですか?」
「あぁ。装着前の奴なら学生の頃見たけど、装着後の状態は見たことないな。」
「俺も。何せ今までそのブレスレットをつけたことのある人なんていないからね。」
「え?そうなんですか?」
「そんなに、ほいほい渡せるもんじゃないだろ。」
「それにしたって、今まで俺を含めて試してきた奴みんなダメだったじゃん。
お前と同じで頭堅いんだねぇ。」
「お前みたいにヘラヘラした奴よりましだ。」
とはいうものの、フランシスのブレスレットを持っている人間は1人しかいない。
一見誰とでも話せる奴だが、人一倍警戒心が強く心の内を中々見せないのだ。
「まあ、こんな眉毛の太い元ヤン野郎だけどよろしくね。菊ちゃん。」
「いえ、私の方がアーサーさんにお世話になっていますし、こんなに綺麗なブレスレット
まで…。薔薇だけでなく様々な植物の生態まで知ることが出来ましたし、とても
嬉しいです。」
その花が綻ぶような笑顔にアーサーの胸にあったモヤモヤやイライラが嘘のように
消えていく。この笑顔をいつまでも見ていたい、守っていきたい。
そう思って、いやいや何考えているんだと思い直す。
菊は男で自分は普通に胸の大きい女性が好きなノーマルだ。
「アーサーさん?どうしましたか?何か私気に触るようなことでも言ってしまった
でしょうか?」
「い、いやそんなことない。大丈夫だ。」
今しがたの思考を振り払うように、アーサーは食べ終わったプレートを持って
立ち上がると足早にその場を離れた。