はいいろのゆび
Episode 9
動揺を隠すように食堂からでたアーサーは早足で廊下を歩く。
菊が来てから何だか調子がおかしい。
普段滅多に表情を変えず、口元に笑みを携えてはいるがその瞳からは何も読み取れない。
唯一、その表情が緩むのは彼の愛犬をもふもふしてる時くらいだ。
そんな動物と戯れる姿も可愛いが…ん?可愛い?いやいや、菊は男だ。
可愛いはおかしいだろ。
自室に戻り、上着を脱ぐ。
「落ち着け、俺。」
アーサーはケトルに水を入れ湯を沸かし、椅子に座った。
ネクタイを緩めて、一息つくとデスクの上にある読みかけの本に手を伸ばす。
2~3ページ読み進めると、ケトルの高音が鳴り響いた。
ゴールデンルールに基づいて温めたポットに茶葉を入れる。
熱湯を注ぎ、砂時計をひっくり返す。その間に、ティーカップやシュガーを準備し
プレートにのせる。
長年の習慣であるこの流れは、もう慣れたもので無駄がない。
微かに香る茶葉の匂いは心を落ち着かせるにはうってつけだ。
砂が全部落ちたのを確認し、カップに紅茶を注ぐ。
注ぎ終わったポットもプレートにのせ、デスクまで運ぶと腰にあたった資料が床に落ちた。
プレートを置き資料を拾う。その内容に先ほどのフランシスとの会話を思い出した。
バイルシュミッドが割り込んだせいで、一番大事なところが聞き出せなかったのだ。
「クソッ、使えねぇヤツだ。」
フランシスがよこした情報と資料を照らし合わせながら、頭の中で整理する。
明日、もう一度ヤツと話す必要がありそうだ。
「チッ!」
舌打ちをして、紅茶を飲み資料をデスクに放った。
アーサーは明日の予定をざっと確認し、のびをした。
「何か疲れたなぁ。今日はもう早めに寝るか。」