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はいいろのゆび

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「嫌です。」

何を考えているんだろうか。いきなり見知らぬところへ連れてきておいて、
ここで働け、なんて。それで、はい分かりました、という人間が世界の何処に
いるだろうか。

「何でだ。」
「私には自分の店があります。生活にだって困っていませんし、必要ありません。」
「給料もちゃんと支払う。その辺の企業より高いぞ。」
「結構です。私、今の生活で十分満足していますから。それに我が愛犬のポチ君も
おいてきてしまいましたし。早く家に帰してください。」
「…分かった。」

アーサーと名乗った青年は少し考えるようなそぶりをして言った。

「じゃあ、その愛犬もここに連れてきていい。今日中に荷造りをして、
ここに住め。」

そう言うや否や、アーサーは車のキーをポケットに入れて部屋を出た。
慌てて後を追いかけた菊は、コンパスの違いからか彼に追いつくのに一苦労だ。
エレベーターに乗ったところで、菊は抗議した。

「貴方、私の話ちゃんと聞いてました?私はここに住むつもりもありませんし、
働く気もありません!大体、何で私がいきなりそんなこと強要されなければ
いけないのですか!」
「あぁ、分かった分かった。その話はお前の家についてからだ。」

そう言ってアーサーはまたもや菊を車へ押し込み、自分も運転席に座った。

菊の家に着くと玄関できちんと待っていたポチ君が尻尾をふりながら、
パタパタと走ってくる。

「ポチ君、ただいま。急に留守にしてすいませんねぇ。寂しくなかったですか?」

もふもふな躰に頬を擦り付け癒される菊。
あぁ、ポチ君のもふもふは正義です。なんと素晴らしいもふもふなのでしょう。
このもふもふは誰にも渡しませんよ!

「おい。」

声をかけられ振り向くとそこには、少し不機嫌な顔をしたアーサーが立っていた。

「入れねぇんだけど。」
「あぁ、すいませんね。すっかり忘れてました。」
「おまっ、俺はっ(ぎゅるるるるる…)」
「…。」
「…。」
「お昼、食べていきますか?」



作品名:はいいろのゆび 作家名:Sajyun