はいいろのゆび
淡々と言う菊の表情は変わらず、何を考えているかは読み取れない。
「こんな私が貴方のような“緑の指”の持ち主と一緒に仕事なんて出来るわけないでしょう。」
そういって立ち上がった菊の目は漆黒で、アーサーを見ているのに何も映していない。
だがその漆黒の闇の奥にはなんとなく寂しさが見えた。
「関係ねぇよ。」
「は?」
「関係ねぇって言ってんだ。」
「貴方、“灰色の指”の言い伝えを知らないんですか?」
「知ってるさ。」
「それなら、何故…!」
「だってお前、植物が嫌いじゃない、むしろ好きだろ?」
「な…!」
「むしろとても大切に思っている。」
「…何故、そう思うのですか?」
「お前の店で売ってる道具、あれはお前の手作りだろ?
使う人が世話しやすいように、1つ1つ工夫が凝らされているし、細かい部分まで丁寧に
造られてるのがよく分かる。そんなものを造る奴が全世界の植物を枯らそうとしてるなんて
思えねぇよ。」
ジャリッ…
そう言ってアーサーは、石庭に下り菊の前に立った。
動揺する菊を余所にしゃがみ込むと、地面に手を当てる。
すると、その周辺がパァッと光り、そこには先ほど菊が枯らせてしまったタンポポが
咲いていたのだ。
アーサーは庭の隅に置いてあった、少し古めかしいジョウロを持ってくると
そのタンポポに水を与える。
「“緑の指”なんか無くたって、花は咲く。花を、植物を大切に思う気持ちがあれば
奴らだってちゃんとそれに答えてくれるんだ。俺たちが花を咲かせるんじゃねぇ。
花が俺たちを選んで、咲いてくれるんだ。」
ジョウロを置いて、瞬きすら忘れている菊の手をとる。
木を削る際に出来た切り傷や、瘡蓋の目立つその手を包む手は暖かい。
「お前の指は、花を枯らすもの何かじゃない。」