【とある】とある神秘の氷彫刻師【①】
#4 道筋
「水野さんは【天然】なんですか?」
店をでて近くにあったベンチに着くと、白井が水野に不意打ちでいった。
「てんねん?すいません、それなんですか?」
ちなみに天然とは最近出来た用語で【うまれつきあほ・ドジ】なことである。
「いえ、なんでもありませんわ。貴方、なにをそんなに喜んでいますの?」
白井はあわてて話をそらした。
(そうでしたわ、この少女はまだ現代日本語に慣れていないのでしたわ)
「そうなんです!わたし、常盤台中に編入することになりましたっ!」
白井の頭の中がフリーズした。
「ちょっとお待ちなさい。常盤台は強能力者
レベル3
以上しか入れないはずですわ。」
「いやだからですね、わたし大能力者
レベル4
以上はあるって言われたんです!」
白井は恐縮した。
(ろくに能力開発を受けてないで大能力者ですって・・・?)
「その大能力者以上という中途半端な数値はなんなのですか?」
「機械壊しちゃったんです、わたし。」
「なんなんですの貴方は!」
「なんか詳しいことは常盤台で聞けって言われちゃったんで・・・。
あっ!地図がありますよ。これ通りに行けばいいのかな?」
「人の話をあまり聞かないタイプなのですわね。」
ぶつくさ言いながら白井はその地図を覗き込んだ。
地図には、計2時間と書かれてが実質4・5時間はかかるだろう。
「こんなめんどくさいルートをたどらなくても空間移動してしまえば10分でいけますわ。」
「さすが白井さん!でもここはいっちょわたしにまかせてください!」
といいながら水野はトートバックからペットボトルを取り出した。
水野が何かしている間に白井は水野のことを観察してみる。
服装は高級ブランド物のいわいる【なんちゃって制服】に身を包み、靴はスニーカー。
髪型はポニーテールにした髪の毛をあたまで団子にして、チョココロネの様になっている。
瞳はめずらしい黒に近い藍色だがそこには限りなく強い【なにか】がある。
(なんなんですのこの人間は・・・。)
白井が今まで見たことのないタイプの人間である。
「できましたよ白井さん!」
そこには、そらにぷかぷか浮いているはずの雲があった。
「それはなんですの?!」
「え〜、雲ですけど。」
「そんなことみれば分かりますわ!」
白井は驚いた。
しかしそんな白井のことを全く気にせずにひょいと【雲】の上に乗った。
「なっ・・・!」
水野は雲のうえから手を伸ばしていった。
「空の旅はお嫌い?」
「そういうわけではありません。」
しぶしぶ白井も水野の手をとり雲に飛び乗った。
「これはなんなのですか?」
白井が尋ねると、水野はごきげんで答えた。
「いやぁ何といわれても水のカタマリですよ。そうですね・・・。
白井さんは片栗粉ってわかりますか?」
「あの料理で使う粉ですの?」
白井は何を話し出すのだろうかと不思議そうにきいた。
「あの片栗粉を水につけるとなんかねちょねちょしますよね?
それをどでかい水槽に入れて踏むと浮けるじゃないですか!」
と言って水野は実際に足踏みする仕草をした。
「それをなんかで見たときはふつーだったんですけど、その後TVでなんかの生き物が超高速で
水の上を足踏みして【歩く】ところを見たんです。
その瞬間にひらめいて、自分が歩くんじゃなくて水の方を動かそうと思ってまぁ考えたんです。」
そう言って水野はため息をついた。
「実を言うとそれは建前っていうか思いついたのは確かだけどわたしもよくわからないんです。
理屈があっているかわからないし。」
ここで白井はふと思いついた事を水野に話し出した。
「さきほど水野さんは教育を受けていないと言っておりましたが、演算の仕方などはどこで学びましたの?ここまでのこととなるとさすがに意識して計算しないと・・・。」
「はぁ?」
おもいっきりキョトンとしている。
「演算ってなんですか?たしか計算と同じような意味ですよね?
なんで超能力に計算がいるんですか?」
「貴方、1+2はわかりますか?」
白井がおもいっきりバカにした目線を送った。
「ぬっ。なめないでくださいよ!4でしょう?わかりますよ、それくらい!」
顔を真っ赤にして水野は叫んだ。
一瞬、雲がぐらついた。
「なっ、なんですの?」
「大丈夫です。落ちないから。」
全く答えになってないと思いつつ白井は考えた。
(なんでですの・・・?1+2もろくにわからないような人が大能力者・・・?
ありえませんわ・・・!)
「あっ、ここですね、白井さん!」
「ここが常盤台ですか?!」
水野が【雲】の上でめを輝かせながら言った。
「いえ。ここは学び舎の園ですわ。」
白井が答えた。
「マナビヤノソノ・・・?」
「学び舎の園とは常盤台中を含む名門女子校がそれぞれの敷地を共有しあう小都市ですわ。」
白井がため息をつきながら答えた。
「なんかすごいですね。【ザ・金持ち!】ってかんじだなぁ。」
水野は顔にかかってきた髪を耳にかけながら言った。
「そういえば水野さんのご両親ってどんな仕事をなさってますの?」
きっと白井は何も考えずに、ごく自然に言ったことだ。
ただ―――。
その質問は水野の胸を突き刺した。
「わたし、両親がいないんです。」
だから水野も笑って言った。
こういう人は知らないし、きっと実感もできないだろう。
人にとって【当たり前】のことが全然【当たり前】じゃないほうが多い自分。
だから、この人は悪くない。
「えっ、じゃあ保護者の方は何をされてますの?」
親がいないのはそれでもそこそこいる。
白井は平静を装って言った。
「保護者もいないです。ずっと一人暮らしだし。」
白井が目を丸くするのがわかった。
白井さん。
だから、あなたにとって当たり前のことは、きっとわたしにとっては当たり前じゃないんだよ?
言うと、きっと彼女は困ってしまうから。
だから、いわない。
「さっ!もう着いたみたいですし。降りましょうか!」
わざと大きな声で水野はそういった。
白井はまだ聞き足りないといわんばかりの顔をしている。
水野はほほ笑んだ。
今言ってしまうと、あなたはその重みに耐えられなくなる。
時が来るまでは、なにも知らないでください。
お願いだから、何も問わないでください。
わたしのほうも、その重みで崩れてしまうから。
@
水野と白井は【雲】から降りて、常盤台中学へ向かっていた。
「ねぇ白井さん!」
水野が遠くを見ながら白井に話しかけた。
「あれって御坂さんですか?」
そう言って水野が指をさした方向には常盤台中学の校門の前で一人の男性に雷撃を浴びせている少女がいた。
「まっ、お姉様ですわ!」
白井は言うが早いか、その場に向かい空間移動
テレポート
してその男性にドロップキックをくらわせた。
「黒子!私の喧嘩の―――。」
御坂がそのあとを言う前に白井が絶叫した。
「貴方は私を差し置いてお姉様と密会しているんですのね!黒子はそのような事は断じて許しませんわ!!!」
白井の言葉を聞いて御坂は顔が赤くなっているし、男性のほうはなにやら『不幸だー!』と叫んでいるし。
作品名:【とある】とある神秘の氷彫刻師【①】 作家名:三浦四菜