少しの間
「しんじまってるのに元気っていうのもなんか変な感じだな」
「くすっ・・・そうだね」
二人は互いを見つめた。
静寂が落ちる。
どちらも視線を外すことができず、いつまでも離すことができなかった。
いつまでもそうしていられるはずもない。
そんなことはわかっていた。
許される限りそうしていたかったが一護は自分から別れを告げた。
「・・・・・・じゃあな」
「・・・うん・・・」
「幸せになってくれ・・・」
「っ・・一護くんがいないのに?」
「ああ」
酷なことを言っている自覚はあった。
「ひどいよぉ~・・・そんなのっ一護くんがいないのにっ」
再び織姫の瞳から涙があふれた。
こぼれ涙に一護は拭う。優しく拭った。
「それでも、幸せになってくれ。俺を嫌いになってくれていい」
「そんなの!そんなの絶対無理だよ!絶対忘れないし、嫌いになんてなれない!!!私は・・・私はずっと一護くんが好きだもの!!!!!!」
いやいやと首をふるう。
そんな織姫を一護は抱きしめた。
最初で最後の抱擁だった。
「………俺も・・・愛してる。幸せに・・・」
ぎゅっと強く抱きしめる。
「一護、くん・・・」
愛しい男の腕の中で織姫は意識が途切れた。
こんなの悪い夢であってくれたらいいのにと願いながら…
一護は尸魂界に行き、代行ではなく正式な死神となる。
そして、ひとつの頼みをした。
仲間達が生きている間は現世任務をさせないで欲しいというものだった。
きっと自分が現世に行けば、霊圧で気が付かれてしまう。
きっと、動揺させてしまう。
それは自分の本意ではない。
そういい、一護は現世任務を一定期間行わなかった。
本心は、たった一人の女性を動揺させたくない為の願いだった。
自分の愛した女性にただ幸せになってもらいたいというひとりの男の願いだった。
会いに来てくれはしないかと言う女の願いに目を瞑り、自分の願いをかなえる為の願いだった。
それは女にとって本当に幸せだったのかは誰も分からない。
月日は立ち・・・・・
「一護」
「ルキア・・・お前仕事中は隊長って呼べって言ってんだろ」
「織姫が、死んだ」
「っ・・・そうか・・・もう60年以上だもんな・・・」
「一護・・・」
「迎えに行ってくる」
「いいのか」
「ああ、あいつを迎えにいくのは俺の仕事だ」
あいつを今度こそ幸せにする・・・。
何十年も恋焦がれた彼女と同じ時を過ごす為。
「久しぶり、織姫・・・迎えに来た」
「待ってたよっ一護くんっ!」