魔法戦記リリカカルなのは To be tomorrow
「院長先生、茶色1名、赤1名、それと無傷の女の子1名まとめて転送します、さっきの子のご家族です」
「転送、聖王病院手術室前!」
「黒1名!」
他の隊員が叫ぶ。
銀行の警備員が頭を撃たれて即死だった様だ。
これでもう、聖王病院は使えない。
その時スバルの横にモニターが開いた。
「こちらも受け入れ準備OKよ、10人ぐらいなら平気、どんどん送ってちょうだい」
シャマルだった。
「おーし、緑の人は救急車で応急手当てしたら帰ってもらえ!
黄色は手当後搬送だ!オレンジ以上は転送すっぞ!」
ヴォルツ指令が怒鳴っている。
そうしているうちに108隊の装甲車が到着した。
転送作業を終えたキャロが辺りを見渡して卒倒した。
そりゃそうだろう、足下には、もの凄い状態の死体が転がっているんだから。
「ねえ、スバル、よくこんなこと考えついたね」
「私じゃあないです、この子なんです」
スバルは膝枕しながら、キャロの頭を優しくなでて語り始めた。
先月のことだった。
休みの日程を合わせ、エリオとキャロがスバルの所へ遊びに来たのだ。
しかし、スバルは部屋の隅でブルーな空間を作って沈んでいた。
キャロやエリオが励ましても、余計に落ち込むばかりだった。
前日の出動で、助けられなかった命があった。
首都高速湾岸線での多重衝突、
単独事故を起こした1台に、次々と乗用車が激突、最後に大型トラックが突っ込む11台が絡んだ事故となった。
原形を留めないまでに拉げた車、その隙間から血が滴り落ちていたり、千切れた手が落ちていたり、
現場は、まさに修羅場だった。
ふと、拉げた車の中に生命反応を見つけた。
リボルバーナックルを装着し、あらん限りの力で車の天井を引っぺがす、
そこに小さな女の子を見つけた、しかし、顔色が恐ろしく悪い、慌てて抱き上げるとかろうじて意識があった。
「………お……お姉ちゃん………ぁ……ありがとう……」
それが彼女の最期の言葉だった。
突然ガクンと力が抜け、手足がだらりと垂れ下がる。
意識を失ったのかと思った、確認するともう心臓も呼吸も停止していた。
「誰かカウンターショックを!」
心臓マッサージもした、人工呼吸もした、しかし、一度止まった心臓はもう二度と動くことはなかった。
絶望に打ちひしがれそうになった時だった。
「ボサッとしてんじゃあねえ!俺たちの仕事はこの現場から生きている人を少しでも早く助け出すことだ!
泣きたければ後で泣け!自分の使命を忘れてんじゃあねえぞ!このタコ!」
ヴォルツ指令だった。
結局、トラックの下敷きになり、拉げた乗用車2台に乗っていた5人が犠牲になった。
あの子も、あの子の両親も即死だった。
現場から帰ってきて、力無く自分のベッドに倒れ込む、ただボーっとしていた、
ただボーっと自分の指先を見つめていた。
手の中に、さっきの女の子が浮かんできた。
「……ぉ……お姉ちゃん……ぁ……ありがとう……」
頭の中を言葉が過ぎる。
だんだん涙が溢れてくる、スバルは慟哭した。
その慟哭を窓の月だけが優しく青く照らしていた。
自分の腕の中で消えてしまった小さな命、どうしてこの子が?悔やんでも悔やみきれなかった。
悲しくて、悔しくて、どうしようもなく情けなかった。
「せめて一瞬で病院に運べたなら、もしかしたら助けられたかもしれない」
スバルがそうこぼした。
転送ポートを持ち運べたなら状況はもっと改善するだろう。
しかし、あれはそう簡単に持ち運べる物じゃあない。
海鳴市にある転送ポート4カ所は、いずれもポートのモジュールは地上に出ていて小さい物の、
システム本体は地下に埋まっていてかなり大きな物だ。
トレーラー2,3台分かそれ以上、小さな雑居ビル位はある。
本来、ビルの中や、戦艦に設置して使う物だ。
「そんなことでしたら、簡単に出来ますよ」
そう言ったのはキャロだった。
「腕の良い召喚魔導師は、転送魔法も得意なんです」
初めは何を言っているのか分からなかった。
「私がここから消えたら、外の駐車場を見て下さい」
そう言うと、キャロは魔法陣の中へ消えていった。
直後、窓から下の駐車場を見ると、魔法陣が輝いてキャロが出て来る。
そしてまた、スバルの目の前に帰ってきた。
「それってキャロだけじゃあなく、他の人や物にでも出来るの?どれ位の大きさの物まで運べるの?」
「出来ますよ、何の問題もなく、大きさはボルテールより小さくて軽ければ全然平気です。
タダ、いろいろ細かい条件がありますが……」
「細かい条件って?」
「たとえばですねえ、管理局の許可無く次元の壁を越えると次元管理法違反で捕まります。
本局のオペレーションセンターが常に監視してますから、完全にばれますね。
違反すれば、すぐにウオッチャーと呼ばれる人が確認に来ます、まあ、姿は見せないでしょうが」
召喚獣も予め許可が取ってないと勝手に呼び出せないらしい。
他にも条件はいろいろあるのだが、大まかにはそんな感じだ。
何故そこまで厳しく召喚魔導師を規制するのか?
それは、密輸物や武器、危険物を持ち込ませない為、誘拐や侵入、窃盗などの犯罪を起こさせない為である。
そのため、召喚魔導師の地位は低く、常に監視されている状態にあった。
条件はスバルにとって何の問題になる物でもなかった。
もう完全にどこでもドア状態だった。
うれしかった、慌ててヴォルツ司令に連絡を取る。
手短に話すと、今度はシャマルと聖王病院にも話をした。
後は管理局の許可を貰って実験を成功させるだけだった。
今月の終わりには、実験をする予定でいたのだ。
それがまさか、こんな形で本番になろうとは、思っても見なかった。
結局、軽傷(緑)4名、軽傷(黄色:入院または検査が必要)3名、重傷(オレンジ:命に別状なし)5名、
重傷(赤:命の危険有り)3名、重体(茶色)2名、死亡(黒)1名の被害者を出して事件は集結した。
事件発生から患者の転送完了まで15分というスピード解決となった。
「ギンガさん、こいつらの護送お願いします」
「あれ?手下は4人じゃあなかった?」
「あ、もう一人は、あそこでこんがりローストされてるっすよー」
ウエンディの指さした車の運転席で、焼死体となっていた様だ。
「ねえ、レイジングハート、ちょっとやりすぎたかな?」
「Don,t worry」
「あ、いっけなーい、ヴィヴィオのことすっかり忘れてた」
それは、なのはのうっかり癖だった、血だらけのジャケット姿でヴィヴィオを迎えに行ったのは不味かった。
いくら笑顔でも、その血糊と殺気は尋常じゃあない、店内が一瞬で凍り付く。
その姿を見たヴィヴィオもまた卒倒してしまった。
この事件は後に「マグドゥーネル事件」と呼ばれる様になる。
作品名:魔法戦記リリカカルなのは To be tomorrow 作家名:酔仙