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ダークネス・ライト

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 ヨハンネスは口調を変えてサラを見た。
「どうして君たちはアビスの情報を聞きに来たんだい?」
 サラは飲み終わったお茶の入れ物を雪で洗いながら言った。
「……私は、死食の直前に産まれたそうです。早産だったから、今こうして生きているけれど、本当だったら死んでいたはずだったって。だから宿命の子に興味があるんです。天文学者のヨハンネスさんだったら、宿命の子に関する情報も知っておられるかな、と思って」
「なるほど」
 ヨハンネスはうなずいた。
「それは、わざわざ来てくれたのに申し訳なかった。宿命の子に関する情報は私も知らない。ただ、知っているかい? 今回の死食は特殊だった。過去の記録では約一年間、闇に閉ざされたとあるが、今回は一年に満たなかった。幸いに、その事で多少なりとも大飢饉を回避できたわけだが、このずれが何らかの影響を与えていると私は考えている。つまり、もしかしたら宿命の子は、この世に生を受けていないかもしれない。それでも君たちは探し続けるかい?」
 サラはかじかんだ両手をそっと握り締めた。どこかで狼の寂しげな遠吠えが聞こえる。
「正直言って、宿命の子とかアビスっていうのはよく分からないけれど、一緒に旅をしている神王教団長のティベリウスさんは、罪とは絶望する事だと言っていました。その言葉の意味は、私分かる気がします」
 サラはヨハンネスを見上げて小さく笑った。
「私思うんです。笑わないでくださいね。ティベリウスさんが神王って呼んでいる、宿命の子っていうのはみんなの心の中にいる希望じゃないかって。どんなにつらい時でも、その心の中の希望を信じてみんなが絶望さえしなければ、きっと平和な世の中になると思うんです」
 ヨハンネスは深くうなずいた。
「つまり君は、宿命の子という名の希望を探しているんだね」
 サラは恥ずかしそうに肩をすくめた。
「なんて、偉そうに言ってるけど、もしかしたら私に出来る事を探しているだけかも。私、旅に出るまで自分は何も出来ない無力な存在だと思っていました。でもそうじゃないんです。何もしようとしなかっただけだという事に気づいたんです。今までまわりのみんなに大事に守られてきただけだったけど、みんなのために私が出来る事を見つけたいっていうのが、一番本当の目的かもしれません」
「……見つかるんじゃないかな。いつか、きっと」
 微笑みかけたサラは夜空を流れる一筋の光の残像を見つけて、歓声を上げた。
「流れ星!」
 慌ててヨハンネスは望遠鏡を覗き込む。
「いよいよ始まるかな、星たちが織り成す大展覧会が」
「あ、また流れた」
 願い事を言う暇もなくあっという間に流れてしまう星たちを見つめながらサラは思った。
 夜の空がこんなにきれいなんて、今まで知らなかった。
 暗闇でしか見えない美しさがあるという事を知らなかった。
 それに気がつく事で、今までよりも暗闇が少し怖くなくなった気がした。

 ──終──

作品名:ダークネス・ライト 作家名:しなち