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隣が特等席

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ここ最近、一護は体調がすぐれなかった。
食事もあまりのどを通らず、やたらと眠い。と、思えば吐き気も催す。
どうしたことかと、日々の生活―――おもに仕事で費やされているが―――の中で思いつつも忙しさにかまけて、四番隊の隊舎を訪れるような積極的な解決を試みようとはしていなかった。

まぁ、少し、最近は忙しかったし疲れているのかもしれない。
仕事が落ち着いたら休暇でもとろうかと考えていた。

副官や部下たちも心配して体調のことをきいてくるし、心配かけるのも本意ではない。
じぶんはそんなに気分がすぐれないように見えるかと疑問に思いつつも、普段、風邪もめったにひかない自分自身を自覚があるため仕方がないことかもしれないと、苦笑いが漏れてします。
部下たちの心遣いはうれしい。
かわいい部下たちのためにも早く体調も回復をしなくてはと心に決め、今日も今日とて仕事に明け暮れる一護であった。
根が真面目な一護は手を抜くということがうまくできない。

そんな一護を知っているからこそ副官は心配しているのかもしれない。

申し訳ないとおもいつつ、一護は隊首会に出席していた。

一番隊の隊舎。
隊長たちが左右に並びその奥の正面には一番隊の隊長であり、護挺十三隊の総隊長である山本元柳斎重國が立っていた。

彼はまさに最強の死神。
そして、一護の親友である。

隊首会で様々な議題が話されているなか、一護は再び体調が悪くなってきてしまった。
思わず、ふらつき隣に立つ隊長にぶつかってしまった。

そんな一護に気が付き、周りの隊長たちが心配した。
一護はぶつかってしまったことを詫び、心配してくれたことに感謝の言葉を述べた。

そこから、隊長たちは最近の一護の体調不良の様子が話題になってしまった。
心配をかけてしまっている状態では、言い返すこともできない。
最終的には後で四番隊に来るようにと、四番隊隊長にくぎを刺されてしまった。

別に放置しているわけではない、いづれはきちんと休息を取るつもりだったのだと心の中で言い訳をした。
口にしたら絶対怒られるので言わないが・・・・。
そんな中、重國にはあきれたというのがまざまざと分かる視線をいただいてしまった。
ああ、また後で何か言われるのだと、肩を落とした。
黙って聞く一護ではないし、重國に何を言われても痛くもかゆくもないが、わずらわしいものはわずらわしい。

一護は総隊長である山本とは同期である。
ふたりして、切磋琢磨しお互いを高めあった。二人はよい好敵手であった。大胆不敵という言葉がよく似合う一護をよく制御して、二人力を合わせて力を引き出したのは山本である。お互いは絶大な信頼関係を築いていた。
男である山本と女である一護の関係を邪推したものもいたが二人は恋人ではなかった。
しかし、恋人以上の固い絆で結ばれていた。
恋人ではなかったが、二人は時折体を重ねることがあった。そこに恋情があったかわからない。そんな、思いではなかったのかもしれない。
もっと、深い思いであったのかもしれないし、若さゆえの戯れから始まったものかもしれない。
一護が重國のことを大切に思っていたことは、間違えようのない事実であった。
一護には家族がない。
だからなのか、一護にとって重要な位置を重國が占めていた。
一護にとって重國は失えない存在であった。
重國を失ってしまうことを想像する事など考えるだけで恐ろしい。
重國がいなくなってしまえば自分は如何したらいいのか、もうわからない。一緒に歩む事が当たり前で、そんな半身のような重國を失ってしまえば自分だけで歩む事など無理だ。
しかし、そんな事は心配なぞしていない。なぜなら、重國は強いから。
失うことなぞありえない。それを信じて疑わないほど重國は強いのだ。
しかし、もし、そんな事があったとたら…失う時が来るとすればきっとそれは自分も共にたつ戦場でだろう。そうなれば自分もともに戦場で倒れているだろう。

それを信じて疑わないほど、傍にいて当たり前な関係だった。



そんな二人が体を重ねたきっかけは、二人の飲んでいた時だったか、曖昧な記憶しかない。
きっかけはどうあれ、二人が体を重ねるようになったのは自然の流れであったのかもしれない。


重國がどう思っていたかは、一護はよくわからない。
誠実な男だ、憎からずに思っていてくれているとは思うが、真実はわからない。
確認しようとは思わなかった。
別にいいのだ、この関係に名前などなくても。
大切なのは重國の傍に入れることだ。
その権利は今のところ自分にあると思っている。
今後、重國が妻をもらった時は考えものだとは思う。誠実な男はきっと今までの関係でいられないかもしれないが、別にかまわない。別に体を重ねることは重要ではないのだ。
重國の傍に入れることが大切なのだ。
きっと、傍にいることは今と変わらないだろう。
それだけは、自分に許されたことだと思っている。
誠実な男であるが、優しい男だ。
立場的に非情な決断をせねばならないことがあるが、それを苦しんでいないわけではないのだ。


そう考えると、もしかすると、俺の我儘を叶えてくれたのだろうか。
体を重ねることで重國の傍にいる権利がまるで有るかのように錯覚させてくれているのだろうか。
考えても仕方がない、重要なのは、重國の傍らにいることなのだ。

その確認作業だったのかもしれない、体を重ねると安心した。その温もりを感じる度に傍にいることを実感したのだ。


もう、今になってはよくわからない。なんでそうなったのかも。
今の日常が有ることが自分にとって幸せなのだ。







作品名:隣が特等席 作家名:アズ