選択は己が意志
選択と決意
それは一護が四楓院の当主の座に着く前の話。
女は乱れた襦袢をすこしなおして隣で寝ている男の顔を切なそうに見つめた。
身を起こし、一心にその寝顔を見つめる目は涙に濡れていた。
その姿はまるで目に焼き付けているようであった・・・。
どれ程そうしていただろうか、女は寝ている男に触れるか触れないかような仕種で男に触れた。
髪から額、頬と順に触れ、最後に唇をなぞる。
「・・・十四朗・・・・・」
愛おしそうにそうつむぐ。
「ごめんなさい・・・」
その言葉と同時に女の瞳から一筋、涙がこぼれた。
「ん…一護?」
男は女の名を呼びながら目を覚ました。
女の名前は四楓院一護、夜一の姉であった。
そして、男ー…浮竹十四朗の恋人である。
「何故、泣いているんだ、一護」
「ごめんなさい」
「何に謝るんだ、一護」
「もう・・・終わりにしなくちゃ」
「っ!何を言うんだっ」
「時間切れなんだ・・・」
「一護・・・」
「俺以外のヒトと幸せになって…十四朗」
言いながら一護は微笑むがその瞳には悲しみと切なさしか宿っていなかった。
ほろりと一護は涙を零す。
「ごめんなさい」
そう言い、一護は浮竹の頬を包み込んで唇を合わせる。
それはまで最後のであるように優しく、惜しむようなものであった。
「許してなんていわない・・・」
「なんでそんな事言うんだっ・・・!」
「俺は、四楓院なんだ…」
「―――っ」
「もう・・・自由は許されない…」
「いやだ」
「十四朗…」
「お前を諦めることなんてできないっ」
「(頭を横に振りながら)わかって・・・」
「無理だ・・・っ」
「十四朗」
「(じっと一護の瞳を見つめて)」
「・・・・・・・心は・・・」
「?」
「心は十四朗にあげる、誰のものにもならない」
「心だけか」
「・・・」
「一護」
「っ…俺に、他に何をあげられるって言うんだよ・・・?」
「泣かないでくれ」
「泣かしているのは、お前だ・・・っ」
「あぁ・・・」
「儘ならない身なのが歯痒いのは俺だっ…!」
「・・・」
「俺だってっ・・・!う・・く…俺だってっ!!」
「すまなかった」
「あぁ・・・十四朗っ…もう・・・(ほろほろ)」
「愛している・・・一護」
「十四朗十四朗十四朗」
「一護・・・・・俺の…」
「一護、泣かないでくれ」
「う・・・」
「お前に、俺の身も心も全てやろう」
「え・・・?」
「お前が今後誰のものになろうと、俺の全てはお前のものだ」
「十四朗…」
「お前以外にもう俺には考えられん」
「そんな・・・」
「そんな顔するな。ただの俺の我侭なんだから」
そう、浮竹は笑い己の愛しい女の体を抱きしめた。
残されたわずかな時間をかみ締めながら。
二人にのこされた時間は本当に極僅かであった。