僕らのサマーウォーズ
「おめでとうございます。夏希さんの勝利です。」
そう宣言されると、夏希が状況を飲み込んで喜ぶ前に、目の前の物体が大きく震えだした。
それはうめき声なのか。判断することはできなかったが、そんなおぞましい音を立てつつ、夏希と対決していたDLは足元から崩れ去り、消滅した。
「やった・・・・・!!」
周りにもその熱が伝わる。
「・・・・ぃぃいよし!よくやった夏希!!!」
そのまま一気に盛り上がりそうだったが、まだ終わっていない。健二がまだ紙とペンを携えて、数字の羅列と激闘を繰り広げているのだ。
夏希は、あの時のように健二の肩を叩く。
「頑張れ!!」
「はい!!!」
そして、健二もついに蜘蛛の糸の先端にたどり着くことに成功した。一番最後に書いていた紙だけをキーボートの前に置き、猛スピードでタイピングする。そして、人差し指を立てた右手を大きく振り上げた。
「もう一度お願いしまあああああああああああああああす!!!!」
叩かれたエンターキー。判定は、『Correct(正解)』だった。
健二の前にあるスクリーンから全ての壁が取り除かれ、「congratulation!!!」と表示された後、画面は対決前と同じ状態に戻った。
しばしの静寂の後、蚊の鳴く声より小さな声で呟いた。
「やった・・・・・。」
そして健二は喜ぶ間もなく、その場に倒れこんだ。
「健二くん!!!」
夏希が駆け寄る。なんだか熱っぽかった。知恵熱だろうか?夏希は戦闘不能となった健二を後ろへ運んでいく。
すぐさま侘助はさっきまで健二が使っていたパソコンを自分の前に持っていき、凄まじいまでのブラインドタッチを披露した。そして、すぐに顔を上げる。
「よし、OZのシステムの一部を復旧させることができた。だがまだOZ本体の機能とあのタイムリミットは止められていない!」
「よしわかった!」
「任せろ!」
医者である陣内万作と救急隊員である陣内頼彦がOZに入り、キングカズマの手当をはじめる。その間に陣内太助がオメガモンと太一たちに近寄り、調べる。
「やはりこの子達はアバターじゃない。」
「そんなことがわかるの?」
「ああ、今少し調べてみたけど、この子達は確かに生きている。とても信じられないが、本当にこのOZの中に入り込んで戦っていてくれていたんだ。」
「それってとても危険な事なんじゃ。」
「ああ、こちらと違って自分たちの命をかけているんだからな。本当に恐れ入るよ。」
その言葉に一同少しのあいだ考え込む。自分たちに同じようなことができるだろうか?そう考えると、想像だけでも恐ろしいものがある。同時に、この選ばらし子供たちの勇気に感服していた。夏希が尋ねる。
「この子達、大丈夫なの?無事なの?」
「無事だとは言い難いが、命に別状はない。だが、回復するまでには時間がかかりそうだ。万作おじさん。そっちはどうだ?」
と先程からキングカズマの手当をしていた万作に質問する。
「もうすぐ終わるよ。そしたらその子達の手当を開始する。だが、時間が間に合わない。」
その言葉に、一斉に時間を見る。
残りは、二分を切ろうとしていた。それを見たカズマが決然と言い放つ。
「あとは僕ひとりで相手する。」
「そんな、お前一人で倒せるのかよ!?」
「倒す。ぜったいに!」
だが次の瞬間、先程まで姿をくらませていたDLが突然突っ込んできた。キングカズマの手当をしていた二人は、慌ててそこから離れる。
DLの初発をかわしたキングカズマは、すぐさま反撃に出る。だが、繰り出した攻撃は全て受け止められ、逆に反撃をくらってしまう。その時、忍び装束に身を包んだイカが一直線に飛んできた。
「師匠!」
「カズマ!わしも加勢する!二人で波状攻撃を仕掛けるぞ!」
そして再び二対一の激しい攻防戦が始まる。
DLは、万助のアバターが武器持ちということで、ラブマシーンがかつて持っていた杖を発現させ、襲いかかってきた。
二人共、すぐに仕掛けるのではなく、フェイントをして気をそらさせた隙に攻撃を仕掛けるという戦法に出た。だが、それでも戦局は圧倒的に相手の優勢だった。そもそも、自由に時間を止め、自在に姿かたちを変えられるチートとも言うべき能力が相手には備わっているのだ。倒すためにはその対策を講じる必要があるが、その時間も知恵も答えもどこにも見当たらなかった。
「クソッ!」
キングカズマが蹴りを放つ。だがDLは瞬時に姿を消し、反対側から攻撃を仕掛けていた伴助と鉢合わせになった。
「危ない!」
すんでのところでお互いをかわす。だがその一瞬の隙にDLはキングカズマの腕をつかみ、伴助へ向かって放り投げた。
がんじがらめになって飛んでいく二人、しかしすぐに体制を立て直す。だが相手の方が何倍も早かった。直後伴助は真下に向かって蹴り飛ばされる。
「師匠!」
「カズマ!よそ見をするな!」
すぐに我に返る。だがその時にはもう遅い。キングカズマは激しいラッシュをくらって、また壁へと叩きつけられた。
「くっ・・・そ・・・。」
残り一分半を切った。もう時間がなさすぎる。万事休すか。
「諦めちゃ・・・ダメだ・・・!」
とても小さな、しかしはっきりとした声が響く。万作から手当を受けていた太一が意識を取り戻したのだ。
「俺たちは、今までにもう何度もダメだと思うことがあったんだ。でも絶対に諦めなかった。だからここまで来れたんだ。今度だってきっと勝てる方法がある。自分たちを信じるんだ・・・!」
その言葉に鼓舞されるかのように、ほかの子供たちもかすかな反応を見せる。
その様子を見ていた陣内家も勇気づけられた。
「そうだ、そうだよ!あいつらがまだ諦めていねえのに、俺たちが諦めてどうするんだよ!」
「見上げた根性だ!まさに我が陣内家の血をついでいるかのようじゃないか!」
「あたしたちも黙って見てないで、何かやるわよ!」
「何かって、なにをやるんだよ!?」
「それをこれから考えるのよ!」
その言葉に反応したのかどうかはわからないが、侘助がはっと顔を上げる。そして再び自分のパソコンと向き合う。
「カズマ!あと少しだけでいい!やつの相手をしてくれ!」
カズマが応える。
「わかった。」
そしてキングカズマはもう一度DLに立ち向かっていく。激しい突きと蹴りの交錯。だがしかし、結果はやはりDLが優勢だった。キングカズマの拳の一発をクロスカウンターで返す。まともにくらったキングカズマは動きを止める。その隙にDLは拳の連打を叩き込み、回し蹴りで止めを刺そうとする。だがここでキングカズマが意地を見せる。DLの回し蹴りを前方宙返りで回避し、そのままかかと落としを決めた。DLは真下に飛ばされたが、すぐに勢いを止め、再びこちらに向かってきた。
その時、太一たち選ばれし子供たちとそのパートナーデジモンたちの姿が、白金の光の柱に包まれた。そしてその柱が消えた時、子供達とデジモンたちの傷が完全に癒えていた。
突然のことに驚く子供達。それを見た侘助は安堵する。
「どうやらうまくいったようだな。」
「あんた、一体何したの!?」
「復旧したOZのシステムを使って、あの子供たちの体力が回復するプログラムを書き込んだ。もっとも、その影響で復旧したシステムは完全にダウンしちまったけどな。」
「ふ〜〜ん。」
作品名:僕らのサマーウォーズ 作家名:平内 丈