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夢轍[5] 執着、或いは繰り返す過去に囚われた鉄

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 そのことについては、特にこれといった感情を抱かなかった。なんとなく、あの男はそうなるだろうという予感もあった。ロベリアという女がマリクにとっての全ての原動力ではなかったかもしれないが、大いに影響はしていた。逆もまた然りだ。互いにそれは、最初からそうではなくとも、徐々にそのように感情を重ねたのだろう。そういうことは、別に不思議ではない。理屈と言葉をならべると意外なほどあっさりしたものだが、他人の事と割り切るにはあの二人はカーツの中ではあまりにも近しい存在でありすぎた。珍しく他人を内側に招くような真似までして、成る程裏切られても構わぬとは思いつつ実際に裏切られると、そこにぽっかりと空洞が出来てしまうものなのだな。自嘲の言葉はまったく途絶える風でもなく、カーツは再び笑いたい衝動を覚えていた。
「入れ」
 促され、一度も開いたところを見たことのない巨大な扉をカーツはくぐった。そして、そこにいた人物を認めたとたん、カーツは呻く。何故。物事を理解できない瞬間に、己の中に在る疑問を言葉にすることが出来ない瞬間に覚える感覚とは、こうも気分が悪いのか。以前も、そういえば似たような感覚に陥ったことがあった。自分のあずかり知らぬ所で己の命運を定められている、という、あの不快感だ。またなのか。
 総統がおわすと言うそこに、カーツが開発した新型を携えたイワン少佐がいた。こちらを労うような態度だ。どういう、ことなのか。問いただす言葉すら口から飛び出ることはなかった。数少ない軍部でも信頼していた相手が、何故、ここに。
「カーツ少尉、久しぶりだな。その様子では、大分無茶をしたようだが、無事で何よりだ」
 ひどく白々しく聞こえる言葉にすら、応じることは出来なかった。なれば、そこにいたのはイワン少佐のみでなく、オイゲン総統がじっとカーツを見つめていたからである。それだけで相手を萎縮させるような、強い目線に晒されながらも、だがカーツもまた動じることはなかった。状況が、全く理解できない。が、いずれ処刑されるか牢獄行きの身なのだという捨て鉢な思いもあった。すると、こうしてこの国の最高権力者やかつての恩師と見えたとしても、どうということもないのだ。そうなると気になるのはイワンが携えているものだ。あれがここにある、ということはイワンが治安維持警察のトップなのだろうか?だが、制服は以前と変わらぬものを着ている。一体どういうことなのだ。
「理解できないという顔だが、おいおい説明はしてゆこうか、カーツ技術大尉」
 大尉?どういうことなのだ。目で問うていたのか、イワンが補足するように付け加えた。「総統はお前の功績を認めると仰っているんだ」が、その言葉すら、意味すらカーツは把握出来ない。元々、目の前の状況が殆ど飲み込めていないのだ。そこに、さらに軍籍を剥奪されぬばかりか昇進、それも二階級である。どこをどう考えてもおかしい。自分は改革派に与した、いや、自ら改革派として政府と事を構えたではないか。カーツ自身の手ではないせよ、既に政府側の人間を犠牲にしているし、こちら側にも犠牲が出ている。そもそも、対話の機会を潰してきたのは政府側ではなかったのか。それを、何故、今更。
「そんなものは、この私の権限でどうとでも出来る」
 尚も呆然としたままのカーツに、総統はそう断じた。直接こうして合間見えるのは初めてだが、成る程人を支配する側の人間なのだと見ただけで納得するような、そういう空気がこの男には存在している。言葉を露にするだけで、否、視線一つで人の命運を簡単に決めることが出来る、そんな傲慢さと恐ろしさを当たり前のように持っている。
「貴様の技術も才能も、そのまま埋もれさせるはこの国の大いなる損失と判断した。その揺るがぬ証拠となったこれは、殆ど貴様一人で設計開発したものだと、イワン少佐が証言しているが、それは誠であるな」
 総統の強すぎる目の光は、既に物事の結論を知りただ確かめているだけだと告げている。事実だ。ああ、そうだ、それは紛れもない、事実だ。その煇術回路を設計し調節し組み立てたのは、この俺だ。オイゲンの支配者然とした言葉に、そこにある傲慢さに刺激されたのだろうか。今の今まで殆ど忘れていたような自尊心が、急速に息を吹き返す。そうだ、俺は技術屋だ。
「間違いありません」
 だから、総統に対し答える声も、どこか異様な熱を孕んでいた。
「ならば、貴様を改めて技術大尉として、第一開発部へ転属させる。異論がなければ、貴様とその仲間のしたことに関しては条件付で不問にする」
 そこで、総統は言葉を切った。異論がある場合は問答無用だということだろう。
 そう、これはつまり、取引だ。総統が命令に従えば、俺は再び技術屋に戻ることが出来る。否と答えれば間違いなく処刑だろう。打算か、それとも矜持を貫くか。己の矜持というものは何であろう。技術屋だ。それは、誰のためでもなく己のためだけの、幼い頃から夢見ていた――夢?
 夢、だったのか?再びカーツは自問する。夢、否、そうではない。それは俺の一つの生き方だった。手段だった。だが、俺という人間はそれだけではなかった。結果は失敗したが、俺は手段以外の生き方を、見つけた。第一、俺はその最初の生き方をそもそも目の前にいる、この、オイゲンという男フェンデルという国に否定されたではないか。そうだ、一度否定しておいて、気まぐれに欲しいなどという、この、傲慢な男は、逆に言えば気に食わなければ簡単に俺を処分する。それは、俺がそう望もうと望まざると結果は変わらない。そんなものは二度とごめんだし、そんな歪さを引きずったままの政府塔なども二度とごめんだ。少なくとも、俺の記憶にはあのコンドラトの無垢ともいえるような情熱がしっかりと刻まれていて、マリクが嘯いた改革の言葉は熱を孕み続けたままなのだ。
 総統も、そしてイワンもひたすら黙っていた。そしてカーツの言葉をじっと待っている。
 ただ、広い空間に総統と上官のイワン、そして自分。実際は兵を潜ませているのかもしれないが、それで殺されるのならば致し方ない、というような気持ちもカーツの中には依然存在し続けていた。どう転んでも、最早何も怖くはないのだ。
「先に、条件と言うものをお聞かせいただけますか」
 そう口を開いたカーツに、イワンもオイゲンも特に何か反応を示すわけではなかった。ややあって、オイゲンが応じる。
「ふむ、扉の前で言われた言葉を忘れるか。改革などとははしかのようなものと思っていたが、どうやらそうではない人間もいたようだ。それが貴様だとすれば、これはわが国にとっては僥倖と言えるな」
 言葉は愉快そうだが、その声色は淡々としたものだった。が、見ればイワンの表情はどこか緩やかになっている。カーツは何も言わず、じっと総統に目を向けた。先ほどから、殆ど不躾とも言える視線を総統に向けているのだが、当の本人はそれに関して何か言う気配はない。
「組織の解体と、互いに二度と接触せぬという条件だ。もし軍部に復帰を望むものがあれば、以前と同様の扱いで復帰を認める」