灰色
ひみつ
手を繋いで帰る20時の街は、正月の賑わいも過ぎて平常心を保っている。
息を吐けばまだ白く凍ってそれもまた、隣にいる彼女がいると例年より遥かに良いように思えた。
全ての始まりは思うに、この街である事をふと思い出す。
この街のとある喫茶店で俺たちは出会って、
この街の少し離れた所で夏生が誠凛の生徒だと知った。
それからの毎日は光速に思えて、でもそれも少しだけ霧がかって見えない。
あの頃は夏生と緑間の事で頭がいっぱいで、忙しいの半分はそれが独占してた様な気さえする。
夏生と付き合いだしたことを、緑間は知っている。
緑間は多分まだ、夏生を好きだと、思う。
たまに携帯を眺めながら物思いに耽っている真ちゃんを見て、携帯を覗くと必ずある『川島夏生』の文字。
羅列する090の文字。
好きならなんで、別れた
未練ありありなところを、見せられて我慢できるほど俺は出来てないぜ?
「高尾くん?」
「ん?」
考え事をする俺の目の前に夏生の姿が目に映り込む。
赤チェック柄のマフラーに焦げ茶色のピーコート。
うすピンク色のもふもふしたイヤーマフラー
寒いのが大嫌いな夏生が今日も完全防備である事を主張する。
「ぼーっとして、どうしたの?」
少しだけ首をかしげる仕草にきゅんとしながら夏生の頭をガシガシ撫でた。
「なーいしょ」
教えない。
真ちゃんとお前の事考えてたなんて、絶対に教えてやんない。
話を逸らすかのように俺は夏生の腕を引っ張って抱き寄せた。