黒と白の狭間でみつけたもの (14)
点で囲んだエリアは、中心街なだけに、アーティがいるポケモンジムからも、そう離れてはいない。ジム近辺での犯行。その事実に、ジムリーダーであるアーティが、心穏やかなはずがないのに。
言葉を選ぶべきだったかもと、トウコは後悔したが、アーティは特にそのことに関しては気にしていないようだった。
「そうなんだよね。まるでボクを挑発してるかのように、近くで事件を起こしているのが腹立たしいよ。ここ3日くらい奴らの足取りを追ってみたけれど、全くつかめなかった。まるでこちらの行動を読まれているのかと思うほどにね」
「じゃあ、てきのアジトもちかくにあるの?」
「そうじゃないかと、思っているよ」
アイリスの言葉にアーティが頷いた。
「なら、この円形の周辺を捜すってことですか?」
トウコが聞くと、アーティは首を横に振った。
「その辺りは、厳重に調べてみたけれど、特に変わった場所は見当たらなかった。昨日は、ようやくプラズマ団の一人を追いつめたこともあったんだけれどね……」
「にげられたの?」
「痛いところつくね、アイリスは。そうだよ。でも、おかしなもんだったさ。いきなり街に住みついてる野生のポケモン達に襲われてね。その間に逃げられたんだよ。 この街に住んで、あんなことは初めてだったね、あそこのポケモン達は人に慣れてるし、普段は人を襲わないポケモンなのに…」
「この街に野生のポケモンが住んでいるんですか?」
街に入ってから、野生のポケモンなんて見かけていないから意外だった。
こんな都会でも、野生のポケモンが住み着くのだと、正直驚いた。
「ああ、人に捨てられて、野生化してしまったポケモン達がね。ボクがこの街に来るよりも前から、街の奥地のゴミ捨て場に住み着いているらしい。時々、街に出てくるんだけど、とても大人しいポケモン達なんだ」
アーティの話に複雑な気持ちになった。
そんなポケモンがいるんだ…。
何気なく聞いたことだったが、人に捨てられたポケモンというのは、かなりショックだった。
「まぁね、そんなわけで逃げられたわけだけれど、その日追いつめた場所は、やっぱり中心街だった。でも、その逃げ方は意外だったよ。そのプラズマ団が走っていったのは、西側だった。すぐ東には、人混みの多いビジネス街があったはずなのにね。てっきり人に紛れて逃げるだろうとばかり思っていたから驚いたね」
そう言って、地図上の赤い印を指さすアーティ。その場所は、中心街といってもかなり西よりの場所だった。
今日歩いてみても思ったが、ヒウンシティは西に行くほど人混みが穏やかになる。
つまり人混みの少ない通りに逃げ込んだということになる。
「西の方って、この赤い印の場所ならヒウンジムにも近いじゃないですか。誰かプラズマ団を見かけた人はいなかったんですか?」
ジム近くにはトレーナーも多い。それでなくても、ヒウンシティのメイン通りに全く人がいない時なんてみたことがなかった。
あんなシルバーの派手なコスチュームなら、一目見れば誰でも覚えているだろう。
「残念ながら、覚えていた人もいたけれど、目撃談はここで消えてるんだよね」
「え? ここってジムの目の前じゃないですか」
アーティが指さしたのは、ほんとにジムの前のメイン通り。
海岸から中央公園まで続く西の一本道だった。
「そうなんだ。しかも、中央公園や海岸側ではその後の目撃情報はなかった。まぁ、あの派手な服を着替えて逃げた可能性もあるけれど…」
「それって…」
「恐らく、アジトはこのメイン通り沿いにある可能性が高いってこと。それなら今までのことも説明がつくんだよね。ジムが近ければボクの動きも監視されていたはずだ。 今まで事件があるたびに、現場に駆けつけていたのに、プラズマ団の足取りを追うことが出来なかったのも、敵に動きを知られていたからだと推測できるだろう?」
すごい…アーティさん、探偵みたいだ。
「でも、それならジムのまえで、まちぶせしたほうが よかったんじゃない?」
アイリスが言った。
確かにその通りだ、事件現場に駆けつけたんじゃあ、せっかくそこまで推測した意味がない。
アーティは、大丈夫と頷いた。
「ボクの方だって、やられっぱなしは悔しいからね。今日は作戦を練ってきたよ。ちょうど、そろそろボクの格好をしたダミーが、ジムに帰っている頃だ」
「ダミーって?」
「それって、アーティさんに変装した人が別にいるってことですよね。なんでわざわざそんなこと……」
「そりゃあ、見張られてるとしたら、ボクがジムで動かず待っているようなことをしたら、相手だって、こちらの動向に気づいてしまうかもしれないからね」
アーティは再び地図を指さした。
「この地図に書いた事件の起きた時刻をみてもわかるけれど、プラズマ団の奴らは、なぜか一度強奪に成功した場所には、戻ってくることが多いみたいだ。最近は、ボクがジムに戻った瞬間をみて、ほぼ同時刻に事件が発生した場所と、同じ場所で強奪が起こってる!」
赤い印には、よくみると一つ一つ、日付と時間が書かれていた。確かに、事件が起きた同じ日付と同じ日に、もう一度、同じ場所で強奪事件が起こっていた。時間もそんなに差があるわけじゃない。
「一度、成功すると自信がついて戻ってくるの?」
わけがわからない行動だが、理由を考えるとすれば、そうとしか思えなかった。
「だから、今回は鎌をかけてやろうと思ってね」
にやりと笑みを浮かべるアーティさん。ここはベルのポケモンが盗まれた場所の近く。わざと相手を誘い込むつもりなんだ。
プラズマ団がここに戻ってくる。
そいつを追いつめれば、ベルのポケモンだって返ってくる!
アーティさんの作戦のすごさに感心しているときだった。
すすり泣きながら、私たちの側で話を聞いていたベルの表情が、突然変わった。
ぼうっと、どこか遠くを見ていたかと思うと、硬い表情を浮かべながら、突然指を指したのだ!
「あの人!!」
ベルが声を荒上げて指さした先、プライムビアの波止場の入り口には、銀色のコスチュームに身を包んだ女が立っていた。
プラズマ団だ!
こちらの状況に気づいて、女はひどく困惑していた。
「なんでここにジムリーダーがいるの!? せっかくうまくいったから、もう一匹奪おうとしたのに…………って逃げなきゃだわ……!」
プラズマ団の女が、慌てて逃げていく!
まずい!追いかけなきゃ!
「トウコさん行くよ! アイリス!君はその子の側にいて!」
逃げていくプラズマ団の女を追いかけて、駆けていくアーティ。
トウコもそれを追いかけて走り出す!
「アイリスちゃん、ベルをお願い!」
振り返りぎわに、トウコは叫んだ。
「うん、まかせて! あたし ベルおねーちゃんのボディガードしてる!だから おねーちゃんは わるいやつをおいかけて!」
妙に頼もしい小さな女の子は、トウコ達を応援するように力強く手を振った。
まかせて!ベルのムンナは絶対取りかえしてみせるから!
トウコは踏み出す足に力を込めた。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (14) 作家名:アズール湊