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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (14)

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こんなに頑なに、自分の役割をやり遂げるように攻撃をしかけ、敵意を露わにしてくる2匹。

「いったいどうして攻撃してくるの?私たちは、あなた達に危害を与えようとは思っていないのに!友達のポケモンを盗んだ犯人を追いかけていただけ。道をあけてさえくれれば攻撃することもなかった!」

トウコが話しかけても、彼らの目に宿る攻撃の色は消えない。

じりじりと間合いをつめてくる。

こんな戦い、無意味なのに。

「できるなら、私はもう戦いたくない。ここであなた達を傷つけても何にもならないもの」

語りかけても、威嚇をやめない2匹。意思は変わらない。

毛を逆立てて、今にも飛びかかってきそうだった。

「ヒヤヤ!」

もうこれ以上待つのは危ないというような、ヒヤリンの声がした。

やっぱり戦うしかこの2匹を止める方法はないのだろうか。

話しかけても、変わらない頑なな意思。

まるで何かを守っているみたいだと思った。

そう思ってハッとした。

「もしかしてあなた達、誰かとの約束を守ろうとしているの?」

トウコの問いかけに、2匹の表情に戸惑いの色が見えた。

やっぱりそうだ。

この2匹の後ろには、誰かがいる。

そう確信した瞬間、ついに2匹が飛びかかってきた!

仕方なく、攻撃の指示を口にしようとした時、トウコの指示よりも早く後ろから2つの影が、走り抜けていった!

テリムとヒヤリンが動くよりも前に、チョロネコとミルホッグを抑えたのは、2匹のチラーミィだった。

「「ミミィーー!!」」

2匹を制止するようにチラーミィ達の荒い鳴き声が響く!

チラーミィの姿を見るなり、チョロネコとミルホッグの動きが止まった。

攻撃の手をやめて、地面に降り立つ。

突如として現れた2匹のチラーミィと向かいあうと、チョロネコとミルホッグから、明らかに戦意が消えていった。

「ミィ、ミミィ!」

何かを話し始めるチラーミィ。

チョロネコとミルホッグに語りかけるように鳴き声を何度か上げると、チラーミィの1匹が、トウコに向かって頭を下げた。

謝っているようなその仕草。

目の前にいるのは、恐らくチョロネコやミルホッグと同じ、この街の野生ポケモンだろう。

仲間を助けに来たわけでなく、わざわざ攻撃をやめさせて、自分を助けた意図がわからなかった。

ヒヤリンとテリムも、戸惑い顔だ。

―― 助けてくれた? でも、どうして?

チョロネコとミルホッグは、トウコ達をちらりとみると、チラーミィ達に促されたのか、まるで初めから感心がなかったかのように背中をむけて、路地の裏の隙間へと入り込んで姿を消した。

あっという間の出来事に、ぽかんとする他なかった。

2匹のチラーミィ達は、トウコに駆け寄るなりもう一度頭を下げ、にっこりと笑った。

無駄な戦闘を止められて良かった。

でも、どうして仲間を止めてまで助けるようなことをしてくれたのか、初めて出会ったはずなのに、なぜこんなにも警戒心がないのかわからない。

敵意があるようには見えないチラーミィ達に戸惑いながら、トウコはしゃがみこんで2匹を見つめた。

「ありがとう…、でもあなた達はさっきの子の仲間でしょ?どうして私を助けるようなことしてくれたの?」

正直な感想だった。

チラーミィ達は、お互いの顔を見合わせると、クスリと笑ってそのうちの1匹が、しゃがみこんでいるトウコの額に顔をすり寄せた。

突然のチラーミィの行動に驚いたが、トウコの中にチラーミィ達の伝えたいことが流れ込んできた。

『あなたはNのお友達でしょ?僕らは、きみを捜すようにNから言われてやってきたの。さっきは仲間がごめんなさい』

伝わってきた言葉と一緒に浮かんで見えたのは、チラーミィ達に話しかけるNとその腕に抱かれているゾロア。その側には、複雑な表情をしているタッくんがいた。

タッくん!?……Nが見つけてくれたんだ!

安堵する思いと共に、頭に何かひっかかった。

チラーミィ達が、私を助けてくれた…、それもNのおかげ…?

戦いを挑んできたミルホッグとチョロネコ。それを仲間だという、チラーミィ達が自分を助けてくれたということ。それが何を意味するのか、わからないわけがなかった。

街のポケモン達を動かしているのは……N?

なんでそんなことを……?

抱いた疑問に、急にめまいがした。何かが見える。

そうわかった瞬間、記憶の断片がドッと、トウコの中に流れ込んだ!

頭の中に情景が浮かび上がる。

これは、チラーミィの記憶…?

大きな粗大ゴミや瓦礫が、山のように積み重なっている街のどこかだった。

ゴミ捨て場のように見える広場。アーティさんの言っていた、街の野生ポケモンの住みかだろうか。

その場所に集まっているのは、毛並みの汚れた、たくさんのポケモン達。その中には、先程見かけたチョロネコやミルホッグ、チラーミィの姿もあった。

彼らが見つめる先、瓦礫の山に立っているのは、Nとゾロアだった。

広場に集まるポケモン達を、まっすぐと見据えて話しはじめた。

「君たちのようなポケモンを、これ以上増やしてはいけない。君たちのようなもの達が、狭い世界に閉じこめられ、このような場所に追いつめられて暮らしているなんて、おかしなことだ」

Nの声が広場に大きく響きわたる。

「人間は、自分たちの力を過信しすぎている。人とポケモンは分けられるべきだ。ポケモン達が傷つかない世界を…。ボクは全てのポケモン達を助けたい!そのための力を…、君たちの力を貸して欲しい。全てのポケモンを解放するために!!」

歓声のように湧き上がったポケモン達の鳴き声。

その威勢のいい鳴き声に合わせ、遠吠えするゾロア。

その光景を穏やかに見つめるN。

どこまでも真っ直ぐで、恐ろしく澄んだ瞳。

何かが欠けた、冷たい目だった。

その表情を、その目をトウコは知っていた。

ヤグルマの森での事件の時。怪我をした私を森の奥から運んでくれたNが途中でみせた顔だ。

プラズマ団のところへ行くという私を知って、表情を変えたあの時のNの顔とそっくりだった。

暗闇に消えたN。彼との距離に気づいてしまったあの夜に。

チラーミィの記憶が見せた異様な光景に、トウコは目を見開いた。

―― 何、これ…!

「N…?」

見えてしまった記憶の断片に、青ざめた。

知ってはいけないものを見てしまった気がする。

あれがN?

ポケモン達の解放?

それじゃあ、まるで……。

結びついてしまう答えに凍り付いた。

『トウコさん…?』

顔をのぞき込んでいるチラーミィの声に気づき、ハッとした。

突然、黙り込んでしまったトウコを心配しているようだった。

「あ、ごめん。Nが……、タッくんが待っているんだったね」

無理矢理笑顔をつくり、平静を装った。

『うん、早くついてきて!』

トウコはヒヤリンとテリムをボールに戻し、チラーミィに連れられるまま、2匹を追いかけた。

アーティさんからの連絡はまだない。

早くタッくんを迎えに行きたいはずなのに、アーティさんの連絡が今すぐ来てくれることを、どこかで祈っている自分がいた。

迷子のタッくんが見つかった。