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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (14)

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本当なら、喜ぶことのはずの事柄に、頭が混乱して感情が湧かない。

さっきのアレは何?

チラーミィ達が…、チョロネコとミルホッグが…、街の野生ポケモンが従っているのは?

Nのあの言葉は?

考えたくもない疑念ばかりが渦巻いた。

やがて見えてきた広い公園の中で、笑顔で手を振る緑の髪の青年を見つけた時、トウコはうまく笑うことができなかった。

真っ白な丸い噴水。彼とよく話すきっかけになった、サンヨウシティの白い噴水とどこか似ているその噴水の縁に腰かけて、Nは待っていた。

チラーミィ達は、Nを見るなり彼に飛びついてじゃれ回った。Nに頭をなでられ、嬉しそうに眼を細めて鳴いている。

「ありがとう、君たちのおかげでトウコが来てくれた」

微笑むNの膝の上には、いつものゾロアがいた。

見慣れない綺麗なチョロネコの脇に、タッくんの姿を見つける。

その姿に安堵したはずなのに、心のつっかかりがとれない。

「久しぶりだね、トウコ」

にっこりと微笑む彼は、いつもと変わらなかった。

日だまりのような優しい笑顔に、胸がぎゅっと締め付けられた。

「うん、久しぶり! Nがタッくんを見つけてくれたのよね、ありがとう!」

精一杯微笑んだつもりだが、上手く笑えただろうか。

「ボクはただ、彼の手伝いをしただけ。君を捜していたのは彼の方だよ」

そう言って、Nはタッくんをみた。

タッくんはトウコを見ながらも、少し下を向いてもじもじといて、落ち着かない様子だった。

はぐれてしまったことに、もしかしたら責任を感じているのかも知れない。

トウコは駆け寄ると、見上げてくるタッくんを座り込んでそっと抱きしめた。

緑の匂いがした。慣れ親しんだ柔らかい香り。

「ごめんね、タッくん。迎えに行くのが遅くなって」

『そんなことない。トウコのせいじゃないよ。僕もいつまでも心配かけてごめん、もう、大丈夫だから…』

タッくんの言葉が響く。

腕から伝わってくるその温かさに、ようやくトウコは安堵した。

「ほんとに無事で良かった…。あれ?なんかあちこち怪我してない?」

タッくんをよく見ると、体のあちこちに小さな切り傷があった。

バッグからキズぐすりを取り出そうとしたトウコをみて、タッくんは慌てて『…いいよ!』と制止した。

『ちょっと喧嘩しちゃって…』

「ごめんねトウコ。ボクのゾロアがいけないんだ」

Nの声が聞こえて、振り返る。

申し訳ないような表情を浮かべる、彼の膝の上にのっているゾロアが、ぷいっと明後日を向いていた。よくみるとゾロアの体も擦り傷だらけだ。2匹が喧嘩して、攻撃し合ったのが想像できた。

「喧嘩?なんでまた…」

『…………』

トウコが聞くが、タッくんはどこか不機嫌な顔をして、黙って答えなかった。

まぁいっか…、と思いながら立ち上がろうとした時、タッくんがふいに顔をすり寄せ、聞いた。

『それより、トウコなにかあったの?顔色が悪い』

タッくんの言葉にドキリとした。

鋭い洞察力。いつも側にいるタッくんには隠しきれていないようだ。

「な、なんでもないよ。タッくん、大丈夫!」

そう言って、笑ってごまかしながら立ち上がったが、タッくんは納得していない表情だった。

「具合、悪いの?トウコ」

後ろから聞こえた、心配するNの声。

心臓が跳ね上がるくらいびっくりした。

どうやらタッくんの言葉が聞こえてたらしい。

隠していたいときに、隠せないなんて、なんてやっかいな能力だろう……。

「大丈夫、なんでもないから!」

そう言って、振り返りながら笑って見せたが、Nは心配そうにトウコを見つめていた。

柔らかな青い眼差しにドキリとする。

まずい、目が見れない。

直視できない視線に、つい目を泳がせてしまったことが仇となる。

「嘘ついてる…」

「え?」

「トウコ、今日何か変だ。なんだかボクを避けてる」

「そんなこと…」

感づかれたことに動揺する。

噴水の縁から立ち上がったNが、トウコの目の前まで歩み寄った。離れたい衝動が、足を後退りさせ、その様子を見たNが、トウコの両肩をつかんだ。

意外に力強く握られた肩に驚きながら、Nを見ると、彼は苛立った様子でトウコを見ていた。

早口でトウコを問いつめる。

「じゃあ、なんで逃げるの?さっきからずっと浮かない顔をしているよね?ボクが何か悪いことでもした?」

「違う…」

大きく首を横に振るトウコを見て、Nは余計に苛立ちをみせた。

「だったら、そんな辛そうな顔してないでよ!トウコがそういう顔をしているとボクも嫌だ。せっかく会えたのに!君と話せたのに!笑ってよ、いつもみたいに…。なんで今日は笑ってくれないの?」

駄々をこねる子供のみたいな言葉を並べて、Nは怒っていた。苛立つ彼の表情を見て、胸がズキリと痛む。まるでこっちが悪いことをしているようだった。

笑いたくても、笑えない。聞きたいのはこっちの方なのに…。

けれど、彼に聞いてしまったら、どんな答えが返ってくるのだろう。聞いてしまうのが恐かった。

苛立ちながらもまっすぐな瞳でみつめてくるNをみて、トウコはため息をついた。

「N……。私に隠していることはない?」

そう言って、憂いに満ちた瞳で見つめてきたトウコに、Nは驚いていた。

「隠していること…?」

トウコは頷いた。気がつけば手が震えていた。

すべてが壊れてしまうかも知れない。口にするのが恐かった。

「今ね、友達のポケモンが盗まれて…プラズマ団を追っているの。その途中で、街のポケモン達に襲われたわ。まるで、プラズマ団を援護するみたいに! チラーミィ達に助けられたけど、私、その時に見えちゃったの…。あなたがゴミ捨て場のような広い場所で、ポケモン達に話した時のこと…!」

トウコの言葉に、Nが目を見開いた。

明らかな動揺の色が見て取れて、胸の中がざわついた。

考えたくもないことだった。

でも、もう聞かずにはいられなかった。

「…N、あなたは……。カラクサタウンで演説していた人達と、関係があるの?」

見えてしまった真実。

まるで彼らを助けるように、街のポケモン達を従えていたのは?記憶の中でのあの言葉は?いったいどういうことなの?

Nは目を伏せて答えない。

「答えてよ! N!!」

違うって、関係ないんだって、すぐに答えてよ!

どうして何も言ってくれないの?

じわりと目が熱くなる。

ザーザーという噴水の水音がうるさかった。

彼の答えを待つ、その時間に苛立ちを覚えたときだった。

静かに、彼の口元が動いた。

「…そうだよ」

Nの言葉に耳を疑いたくなった。聞き間違いであって欲しかった。けれども、Nの表情からは感情の揺れ動きもみられない。ただ真実だというばかりに、まっすぐとトウコを見つめるだけだった。

「うそ…、でしょ?」

「ほんとだよ。彼らはボクの同志だ」

はじめから…?助けてくれたあの時も…?

裏切られたような、やりきれない思いと共に怒りが込み上げてきて、気づけばNの頬を思いっきり叩いていた。ぱんっという破裂音にも似た音が高く響き、叩いた右手がやけに痛かった。