黒と白の狭間でみつけたもの (14)
Nは赤く腫れた頬を押さえながら、涙目になったトウコを呆然とみている。
叩かれたというのに何も言わないNが、余計に腹立たしかった。
「♪~♪~♪~」
トウコのライブキャスターの音が響いた。
急いで、通信をつなぐ。
『トウコさん! プラズマ団のアジトの場所がつかめた!今すぐヒウンジム前の斜め向かいのビルまで来て!』
アーティさんの声が響いた。
「わかりました。すぐに向かいます」
トウコはそう言って、通信を切った。
その様子をNはただ静かに見ていた。
「…行くんだろう?」
Nが聞いた。
「邪魔…、しないわけ…?」
「ボクが邪魔したところで、君は行くだろう?」
「ええ、行くわよ。人のポケモンを盗むような人達、私は許せないもの」
トウコが仲間の場所に向かうというのに、彼は関心がないようだった。
胸の中が苦しかった。
どうしてNなの…?
ポケモン達に優しいこの人が、どうしてあんな奴らの仲間なの?
悲しくて涙がこぼれ落ちた。
「ボクのこと、嫌いになった?」
冷静な態度のNに、カッとなった。
「嫌いよ!大っ嫌い!!」
「そうか…。君なら、ボクの考えをわかってくれるような気がしていた…」
そう言うNの表情は、どこか寂しげで、なぜそんな顔をするのかわからなかった。
「Nの考え…、私にはよくわからない!!」
そう言い放ち、トウコはそのまま走り出した!
タッくんが慌てて、トウコの後を追う。
振り返らなかった。
今、Nがどんな顔をしているかなんて、知りたくなかった。
走りながら腕で涙を拭うと、今ある事柄に集中した。
アーティさんのところへ行かなくちゃ! ベルのポケモンを取りかえすんだ!
Nのことを頭から切り離して、トウコはアーティさんとの待ち合わせ場所に急いだ。
中央公園から、目指すメインストリートまではすぐだ。
公園を抜け、海側を目指して走ると、すぐに巨大なビルが建ち並ぶメイン通りに辿り着く。
もっとも西側にあるこの道は、ヒウンタウンのメイン通りの中でも人通りが少ない方だ。
アーティさんが説明していた、アジトの場所はすぐにわかった。
ジムの斜め向かいのビル。そこに銀のコスチュームをきたプラズマ団の団員が数人見えた。
建物の入り口の前に立ちふさがるようにしているその人達と、いがみあっている男性はアーティさんだ。
「いない、いない!」
「そうだ!知らないぞ、そんな奴!」
抵抗するプラズマ団員の荒い声が聞こえた。
トウコが駆けつけてくるのが見えたのか、アーティは手を振って見せた。
「ああ、トウコさん。来てくれて助かったよ。ここがアジトなのは間違いないんだけれど、この人達が立ちふさがってね。ビルの中に入れなくて困ってたところだ。1人で倒すには、なにぶん数が多そうでね」
「そうですね、でもまさかほんとにこんな近くにプラズマ団のアジトがあるなんて…」
ジムの斜め向かいのビル。こんな近くで周囲の動向をうかがいながら、堂々とここで盗みを働いていたと思うと、腹立たしかった。
「あれ? 君のポケモン…見つかったの?」
アーティさんが、トウコの側にいるタッくんを指さした。
「ええ、さっき、見つかって…」
「ならよかった!」
アーティはにっこりと微笑んで、目の前にいる団員に詰め寄った。
「君たちに話を聞いてもらっていても、お話にならないね。そこをどいてもらえないかな」
「そうよ!ベルのポケモン返しなさいよ!」
トウコも前へと詰め寄る。
「だから、そんなポケモン知らないと言っているだろう。全く、勝手なことを!ウソだと思うなら、オレと勝負してみるか?」
プラズマ団の男が言った。
「いいわよ、初めからそのつもりだもの!」
トウコの言葉に、プラズマ団の男がわなわなと震え出した。
「言わせておけば、ムカツクガキめ!! 俺はこっちの弱そうなヤツの相手をするから、おまえらまとめてあっちの強そうなヤツに向かえ!」
男のかけ声と共に、プラズマ団の2人組がアーティに詰め寄った。
「……ったく! というわけで、トウコさん。そっちの相手はおまかせするよ」
モンスターボール片手に、アーティさんはあきれ顔だ。
「まかせて下さい!」
だいたい、弱そうだなんて!その言葉、撤回させてやる!
挑んできたプラズマ団の男に、トウコは言った。
「ベルのポケモンを盗んだこと、後悔させてやるわ!」
相手が出してきたのはメグロコ!
そこに勢いよく飛び出してきたのは、側に控えるタッくんだった。
「タッくん、頼むわよ!」
「ジャジャビー!」
飛び出すと同時に、相手に睨みをきかせるタッくん。
いつものタッくんに戻っていた。
元気がなかった時に感じた、迷いが全く見られない。
何かが吹っ切れたみたいだ。
「メグロコ、かみつけ!」
「タッくん、つるのムチ!」
メグロコが攻撃をしかけるよりも早く、タッくんのつるのムチが決まる!
バシンという鋭い音と共に、はね飛ばされたメグロコは目を回していた。
あっという間に、ボールに戻る。
「くそ!もう1匹だ!」
プラズマ団の男がもう1匹、メグロコを放つ!
いつもの調子のタッくんに、メグロコなんて敵じゃない!
キレのある、俊敏な攻撃がもう一発決まった。
手持ちのいなくなったプラズマ団の男は、うろたえる。
「っだよ!人のポケモン奪ったぐらいでマジかよ!!」
隣を見ると、アーティさんの方も、あっという間に勝負がついたようだった。
2対1にも圧勝。
さすがジムリーダー!
門番は片付けた!
後は、中にいるプラズマ団だ!
「さぁ、道をあけなさい!」
攻めるトウコと、アーティに気圧された団員が後ずさりする。
「マズイ……!」
「マズイ、マズイ、マズイ、プラズマ団として相当マズイ!」
「とりあえず、七賢人様に報告しないと……!」
3人のしたっぱが青ざめた表情で、逃げ出すようにビルの中に飛び込んでいった!
「追いかけるよ!」
「はい!」
アーティと、トウコがビルに入ろうとした瞬間、後ろから聞き慣れた声がして振り返った。
ベルとアイリスだ。
きっとアーティさんが連絡しておいたのだろう。
辿り着いた2人は息を切らしていた。
「……はぁ まよっちゃった。ライブキャスターでせつめいされても、チンプンカンプンだよ!」
アイリスが疲れた顔してそう言った。
「アイリスちゃん、この街、苦手みたいで…」
ベルが言った。
まだ元気とは言えないだろうけれど、なんだかいつものベルの調子に戻っていた。
落ち着きを取りもどしたんだろう。
少し安心する。
「まぁ、これでみんな揃ったね。ここにプラズマ団がいる。もしかしたら、他にも奪われたポケモンがいるかもしれない」
アーティが言った。
「じゃあ ボクは行くよ!」
ビルに突入していくアーティ!
「よーし! こんどは、あたしもたたかう!!さあ、ベルおねーちゃんも!」
アイリスが気合いをいれて、アーティに続いた。
ジムリーダーのアーティさんが認めているくらいだ。きっと強いのだろう。
「ちょ ちょっとお…。トウコもきてえ!」
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (14) 作家名:アズール湊