ハリー・ゴー・ラウンド②
街の中央通りから少し外れた露店街の一角。
銜え煙草でせっせと指輪を磨く男の隣で、そばかすの女が帳簿を手に頭を抱えている。
「最近来ないね、そこの人。」
二人の隣のぽっかり開いたスペースを見て、同職者達が噂する。
女は帳簿から顔を上げ、往来を見詰めて溜息を吐いた。
「今日も来ないのかなぁ?」
隣のビスケット色の髪の男に問い掛ける。
男はうーんと煮え切らない返事と共に煙を吐き出した。
「連絡取れないんすか?」
「全っ然ダメ。風邪かと思ったけど、長すぎるよねぇ。」
どれ位顔を見ていないだろう、記憶を辿り二人は眉を顰める。
帽子の彼は黒いプリーストが訊ねてきた日から、青い彼はその前日から、姿を見ていない。
初めの1日はどこか遊びに、2〜4日は二人揃って風邪でもひいたのだろうと思っていた。
それが今日で5日経ち、声を飛ばしても何の反応も無い事に二人は不安を抱き始めていた。
「やっぱ家行ってみるよ。」
言うな否やブラックスミスの女は広げていた売り物を掻き集める。
大人だ子供だプライベートだ関係無く、唯仲間が心配でいても立ってもいられなかった。
「エッ、ちょっとネネカさん、たく、宅配はっ!?」
唐突に店じまいを始めた同職者を、男が慌てて引きとめる。
彼女は掴まれた腕を振りほどき、代わりに抱えていたファイルを押し付けた。
「代わりに届けといて、お願いね!」
「そっ、そんな、俺場所知らないっすよ!?」
「地図にマルしとくから。」
「だって、ネネカさん指名で頼まれた物じゃ。」
「そんなの誰だって同じでしょうに。」
「信用に関わります!!」
ブラックスミスの女は蜜柑色の頭を抱え、唸り声を上げた。
「じゃあアンタ様子見てきてよ〜・・・」
「俺指輪の採寸頼まれてんすよ・・・。」
「どうかなさいました?」
頭を抱える二人の頭上から、聞き覚えのある声が掛けられる。
二人同時に顔を上げ、声の主を見るなり大声で叫んだ。
「あの時の!!!」
「プリさん!!!」
目を丸くし自分を指差す二人に圧倒され、声を掛けた方の男が後退る。
出会った時の礼服ではなく、一般的な司祭のローブに身を包んだ先日のプリーストだった。
ナイスタイミングと二人は声を揃え、手を打ち合わせる。
何事かと首を傾げるプリーストに、二人のブラックスミスが詰め寄った。
「ねぇプリさんヴィヴィアン知らない? ホラあの黒い帽子の、プリさんが連れてった人、あれから全然見てないのよ。」
「前言ったカレラィって人も見ないんすけど・・・知らないっすよね。」
不安げに眉を寄せる二人を見詰め、プリーストは口を引き結び一度だけ瞬いた。
「いえ、存じませんが。」
一切表情を変えず、プリーストははっきりと否定した。
ブラックスミス達はあからさまに落胆し、溜息を吐いて肩を落とした。
「あのぅ・・・今時間あります?」
上目遣いにプリーストを窺う、ビスケット色のブラックスミス。
プリーストはきょとんと二人を見下ろし、ええ、と頷く。
蜜柑色のブラックスミスが勢い良く立ち上がり、彼の手を取り握り締めた。
「ほんと申し訳無いんだけど・・・二人の家、ちょっと見てきて欲しいんだ。」
見るだけで良いんだ、何かあったらすぐ行くから。
慌てて付け足し女は祈る様に彼を見詰めた。
プリーストは彼女の手を握り返し、柔らかく微笑んだ。
「私もヴィヴィアンさんに会いに参りましたので。お二人のお住まいはどちらですか?」
願っても無い彼の言葉に二人のブラックスミスはぱっと顔を綻ばせ、急いで地図を書き始めた。
作品名:ハリー・ゴー・ラウンド② 作家名:335