ハリー・ゴー・ラウンド②
同情するには痛切すぎて、傍観するには重すぎる。
「寝ていないんですよね。どうか眠って下さい、ここにいますから。」
あやす様に背を撫でてやると、布越しの暖かい皮膚から浮いた背骨から掌に低い声の振動が響く。
悲鳴の様だとプリーストは思った。
丸まった背を支え、彼をそっとベッドに横たえる。
体を離すと、あれ程彼の視線を撥ね退けていたタオルが落ち、見上げるブラックスミスと目が合った。
目を開けていないのかと思う程赤く腫れた瞼、痣の様に深い隈、そして、灰のシーツに散る燃える様な赤い髪。
彼の髪をまともに見たのは、この時が初めてだった。
「酷い顔ですよね。」
じっと自分を見下ろす彼の視線にいたたまれず、ブラックスミスがまたタオルで顔を覆い隠す。
「寝ないともっと酷い顔になりますよ?」
ぐしゃぐしゃに折り畳まれた布団をかけ直してやりながら、プリーストが悪戯っぽく笑う。
顔を覆うブラックスミスの腕が、小刻みに震えた。
タオルの隙間から見えた、懸命に笑おうと強張る、歪んで震える口唇。
例え弱々しくても、ようやく彼は笑ってくれたのだ。
作品名:ハリー・ゴー・ラウンド② 作家名:335