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ハリー・ゴー・ラウンド②

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 カートの音が二つ、やけに近くに聞こえ二人は顔を上げた。
 見慣れた二人の同職者が、汗だくよれよれの姿で露店のブラックスミス達を見下ろしていた。
 「見てみて! さっきやっと完成したんだよ!」
 「凄えだろ、ダブルネームだぞ!」
 どうしたのかと聞く前に、二人のブラックスミスがにかっと歯を見せ会心の笑みを浮かべた。
 同時に差し出された二人の手には、ふんだんに装飾された小さなナイフ。
 露店の二人は勢いに圧倒され、ぽかんと口を開け目の前のナイフを見詰めている。
 武器として使用するには頼りなく、日用品・装飾品としても扱いづらそうな代物だった。
 「感想は?」
 青い髪のブラックスミスがナイフを差し出したまま首を傾げる。
 黒い帽子のブラックスミスはじっと露店の二人を見下ろし、様子を伺っていた。
 「見ても良い?」
 蜜柑色のブラックスミスが、青い彼の手からナイフを取る。
 隣のビスケット色のブラックスミスも帽子の彼からナイフを受け取り、二人は真剣な眼差しでそれを鑑定する。
 製作者の二人は嬉しそうに、得意げに、鑑定する二人を見ていた。
 蜜柑色とビスケット色の二人はお互い手にしたナイフを覗き込み、そして信じられないとでも言う様に慌ててそれを交換した。
 「鋳物・・・じゃないよね・・・。」
 「ほっとんど同じじゃないっすか。」
 何度見ても、鑑定に慣れた二人でも肉眼では違いが見られない。
 彼等がここ暫く、熱心にゲフェンのギルドへ通っていた理由がようやく解った。
 「ちゃんと打ち物だよ、両方とも。」
 「俺まだ鍛治なんか全然だけど、彫金なら。」
 青いブラックスミスが嬉しそうに肩を叩くと、帽子の彼は照れ臭そうに首を掻いた。
 「刃はカレラィが造ったの?」
 「そう、鋼は炭素鋼タマハガネの四方詰、刃は両刃のストレートドロップ、切れ味と耐脆性は抜群だよ。」
 腰に手を当て、青いブラックスミスが胸を張る。
 特殊な金属を一切使用しない、東方の異国に伝わる鍛造過程が、独特の黒く鈍い金属光沢を出している。
 彼が拘るその刃は切れ味のみならば神秘の鋼に最も近いと言われ、工程は複雑で刃物として成形するのさえ難しい。
 名の知れた熟練の同職者に比べれば見劣りはするものの、経験も浅くまだ年若い彼が造ったものとしては、その出来栄えは目を見張るものがあった。
 「この細工とシースはヴィヴィアンさん?」
 満足そうな表情を浮かべ、帽子のブラックスミスが肯定する。
 「ヒルトとボルトは銅銀950にイングレーブ、ハンドルはウンバラ産の黒檀、シースは本革。その石はルビーとサファイヤ、ちっさいけどな。」
 実用性と装飾性のバランスの取れた材質だと、ビスケット色のブラックスミスは無言で頷いた。
 銀細工は何かの花をモチーフに左右裏表対称に彫られ、側面に一つずつ、小さな赤と青の石がはめ込まれている。
 古美液で仕上げられた、有機的で立体的なフォルムは彼の好むデザインだった。
 鞘は、刃の先端が収まる部分にも銀細工のガードが付けられ、良くよく見れば革にもナイフの装飾と同じものが焼印されている。
 繊細でち密な作業は鍛治とは勝手が違い、専用の工具は使う者を選ぶ。
 帽子の彼の丁寧で繊細な仕事振りに、二人の仲間は改めて感心した。
 「凄い・・・日用品にするにはもったいないくらい。」
 「マジで、武器にするには勿体無いくらい。」
 二人のブラックスミスは溜息混じりに呟き、そして、顔を見合わせて首を捻る。
 「ちょっと待ってよ、これが狩り用? こんな大きさじゃ刺さりもしない! 折角の綺麗な彫刻に傷が付いちゃうよ。」
 「だって普段使うのに鋼鉄じゃ不便っすよ。それに銀ならウィザードとか、護身用に良く持ってるじゃないっすか。」
 予想通りの反応に、製作者二人はニヤニヤとしたり顔で笑っている。
 確かに刃も装飾も充分に価値のある出来栄えで、どちらかを見れば実用性は申し分無い。
 しかし武器として扱うには繊細すぎて、道具として扱うには維持に手間がかかる。
 お互いの長所と短所がちぐはぐで、何に使うものなのか、何に使いたいのかまるで用途が解らなかった。
 「ほんっっっと、あんたらバカだねェ。」
 「らしいっちゃ、らしいっすけどね。」
 二振りのナイフに込められた意図を感じ取り、蜜柑色とビスケット色のブラックスミスは呆れて笑った。
 羨ましそうな、満足そうな二人の顔が何よりの祝福に思えた。
 「ねぇ、私精錬なら得意なんだけどなぁ?」
 借りたナイフを青いブラックスミスに返し、彼女は意味深な眼差しを送った。
 「材質選びと調達には、俺チョットうるさいっすよ?」
 ビスケット色の彼もナイフを手渡し、不敵に笑う。
 首を傾げてそれを受け取る二人に、蜜柑色のブラックスミスはぷうと頬を膨らませた。
 「もー、二人してずるいよ。私達も仲間に入れてよ!」
 「そうそう、今度は四人分の銘入れましょうよ。」
 間近に迫る拗ねた顔を、青いブラックスミスと帽子のブラックスミスは目を丸くして見返した。
 そして顔を見合わせニヤリと笑うと、二人の同職者に向かって大きく頷いた。


作品名:ハリー・ゴー・ラウンド② 作家名:335