二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【銀魂】短文まとめ【CPなし】

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

【変わらない山と変わりゆく月】2008.09.22

真選組局長近藤勲は、新しい隊士を募集しようと、とある山村へ向かっていた。
多忙な隊務の合間を縫って隊員募集へと出掛ける為、どうしても出発は日が暮れてからになってしまう。
近藤ら真選組新隊士募集隊は、明くる日のまだ暗いうちに目的地の近くへとたどり着いた。
もう少しで着く。とりあえず村へ着いたら知り合いの宿に泊まらせてもらえる。そう自分に言い聞かせ、隊士達は歩いた。
しかし、この細い道を抜ければ目的地、そんな所に先に山村へと向かっていた隊士が立っていた。
近藤が隊士にどうしたのかと尋ねると、その隊士は、この先に人喰い虎が出るらしいと言った。
目の前には、林の間を整備された道が走っていた。
その道はたしかに暗かったが、地図を見ると、さほど長い距離ではなく、とにかく早く到着したかった近藤は歩き出した。
暫くして、林道の入口が見えなくなった頃、いきなり猛虎が草むらの中から飛び出し、近藤へと襲いかかるように見え、近藤は「もう終わりだ。俺はバカだ。どうしてあの時…あぁ、皆。」と一瞬の内に考え、身構えたがいつまでも虎は襲いかかってくる様子がない。
閉じていた目をゆっくりと開いたら、虎が「危なかった…」と繰り返しつぶやくのが聞こえた。
その声に近藤は聞き覚えがあった。
近藤は少ない脳みそをフル回転し、その声の主を探した。
「もしかして…伊東先生か…?」

気違いと思われるかもしれない。
だって彼は半年前に死んだのだから。
だが近藤はその男の声にしか思えなかった。
草むらからは暫く返事がなかったが、少し冷たい風が吹き抜けた後、「そうだ」とくぐもった声がした。
「伊東先生…どうして?」
近藤は、自分で言っておきながら、その虎があの伊東だとは信じられなかった。
しかし、虎が隠れた草むらからは確かに伊東の声がするのだ。
「どうしてかは分からないんだ。あの時死んだと思ったのに、目覚めると僕はまだ生きていたんだ。…虎として。どうやら僕は地獄にさえ行かせてもらえなかったようだ。」
伊東はゆっくり、静かに語り出した。
「…近藤さん、“山月記”という話を知っているか?李徴という、自尊心だけは高い男が虎になってしまう話だ。僕のように。」
近藤は小さく「いや…」と答えた。
「李徴はとても身勝手で、何も分かっていなかった。自らの力を誇示したいがために、周りの迷惑も考えず、官吏を辞め、詩作にふけった。だが、その詩作も思うようにいかないんだ。何故だか分かるかい?」
近藤は暫く考え、「いや…」と答えた。
「李徴は、詩によって名を成そうと思いながら、進んで師に就いたり、誰かと交わり切磋琢磨に努めようとしなかったんだ。自分が傷つくのが嫌だったんだ。でも自分には才能があると信じ込み、そして一人になっていった。
僕も同じようなものだ。
こんな所で僕は終わらない。こんなのじゃ僕の器は満たされない。僕は孤独だ。天才とはいつも孤独なものなんだだ。僕には理解者がいない。僕が生きた証を残したい。
…僕は彼と同じだったんだ。」

そういうと黙り込んでしまった。
月は低くなり、もうすぐ日が昇るだろう。
「近藤さん、山月記には、李徴の唯一の友人が出てくるんだ。李徴はその男に自分の妻子を託す。そして最後に、暫く歩いたら一度だけ振りかえってくれと言うんだ。自分に二度と会いたくなくなるように、と。
近藤さん、頼みがある。」
空を見上げて話を聞いていた近藤は、草むらの、伊東がいるであろう場所をじっと見つめた。
「僕には妻子は愚か、家族さえいない。家を出るときに縁を切ってしまったから。だから李徴のように君に託す人はいない。
だが、真選組…真選組を護り抜いて欲しい。
一度壊しかけた僕が言うのもおかしな話だが…僕はあそこで初めて“人との繋がり”を感じたんだ。
それが…僕と李徴の違いだと思っている。
近藤さん、僕は真選組の皆に嫌われていると思う。いや、嫌われているどころではないな。恨まれてさえいるだろう。
だが、僕は真選組が好きだったんだ。」
その時、目的地の山村から、大きな鐘の音が聞こえてきた。
「あぁ、もう朝だ。さあ、行ってくれ。振り返らなくていい。早く、行くんだ。」
そういうと草むらの影は移動しはじめた。
「伊東先生。」
近藤がそう呼びかけると、影がピタッと止まった。
「その…李徴さんの友人さんは、最終的に、李徴さんを忘れてしまったのか?」
そう尋ねられた伊東は、フンッ、と笑った。
「さあ、彼のことは僕には分からないよ。
…ただ、李徴は忘れて欲しくなかっただろう。
生涯で唯一心を許せた友人に。」
そういうとまた影が動き出した。
「伊東先生、俺は忘れないよ。
どんなことがあったって、俺には大切な友人だ。」
そう言い残し、近藤は去っていった。

月はすっかり沈み、新しい朝が目覚めた。
変わり行く月、変わらない山。
例えどんな姿になったって、“絆”は変わらないだろう。