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刀語 第四話 薄刀『針』再現

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 彼の状態、筋肉の動き、走る速度、踏み込みの強さ。ありとあらゆる要因が、自分に『必ず攻撃の届かない場所』を教えてくれる。
 あとはその場所に足を運ぶだけで、相手が勝手に誰もいない所へと攻撃を放ってくれる。簡単な話だ。
 簡単な――話――
「!?」
 みしっ。
 錆白兵の体中を、耳障りな音が伝達する。
 これは何の音だ?
 何故拙者は、このような音を聞いている!?
 骨の軋む音を! 筋肉の裂ける音を!
 何故彼の蹴りが、拙者に当たっているのだ!?
「派生――『野苺』!」
 腹部に命中した蹴りを基点に、虚刀流は技を繋げようと試みる。どうも肘による打突を狙っているようだ。
(これ以上はくらえん……!)
『爆縮地』を使用した後退で一度距離をとりつつ、肉体の損傷を確認する。随分と浅い蹴りだったのも幸いして内臓はやられていない。だが、あばらが二、三本もっていかれたようだ。
 それにしても――
(何故くらった?)
 特に虚刀流は、妙な動きをした様子はなかった。彼はただ、走り、飛んで、蹴っただけ。何も特殊なことはしていない。つまり、要因は自身にあるのだ。だが、自分がこの十数年間やりつづけた予測を外すなど――外す、など……。
 予測?
 自分は何もかもその場で判断してかわしているわけではない。
 相手の状態を――限界点を戦いの中で探り、『予測』しておいたその情報を、その場で得られる情報と掛け合わせて答えを出しているのだ。
 ならば、相手によってその予測が――限界点がずらされていたとしたら……。
「虚刀流……貴行、自分で自らを攻撃したのでござるな!」
 自らで自らを攻撃する。そのことによって意図的に身体の能力を低下させ相手の予測を外す。
 いつも以上に動かない体が、弱い踏み込みが、働かない筋肉が――相手に嘘の情報を教えるのだ。
 経験が足りないのであれば、相手の経験を崩せばいい。
 まさに奇策中の奇策。奇策士とがめの面目躍如といったところだった。
「ご名答だ! 一回こっきりの離れ業。もう二度と使用はできないが――それでいい。ここからが本番だ! 戦いは――これからだ! 錆白兵!」
 傷ついた虚刀流の状態は把握した。この『予測』を当てはめれば、もう一度『刃取り』は発動するだろう。
 だが――
「それはあまりにも、無粋というものでござるな……」
 口の端から垂れてきた血を指でぬぐう。男性とは思えないほど艶やかなその唇に、薄く紅がひかれた。
「よいよい。拙者は貴行のことを見くびっていたようでござる。だがそれは誤りだった。この上ない失態だった。謝礼とはいわんが、受け取ってもらうでござる」

「限定奥義『薄刀開眼』を!」


「薄刀――開眼――」
 そう呟いた七花の口端にもまた、一筋の血が滴る。
 虚刀流奥義が一つ、『飛花落葉』――奥義の中でも威力の加減ができるその技によって自ら傷つけられた七花の体であったが――されど奥義は奥義。七花の体に与えた負担は、見た目以上に大きかった。
 その負傷による動きのぎこちなさが、錆白兵に「恐怖によるもの」と捉えられたのはこの上ない幸運だった。その代わりに、放った技も踏み込みが甘く彼をしとめ損なってしまったのだが……。
あの一撃でしとめ損なった事は、正直大きな痛手だった。
 あのような変則的手法、もはや通じまい。相手が日本最強の剣士であるなら尚更だ。
 残されたのは深く傷ついた自分の体だけ。錆の体も先ほどのとび蹴りによって負傷してはいるだろうが――それでも肉体的損傷は七花のほうが上だった。
(それでもいいさ。うん。それでいい)
 零れ落ちた口の血を手の甲で乱暴に拭う。
 それでいい。
 例え体が傷つこうとも。
 筋肉が痛みに啼こうとも。骨が衝撃に軋もうとも。
 心が折れるより――よほどいい。
 限定奥義『薄刀開眼』といったか。とがめから聞いた事前情報には、なかった名前だ。
 限定というからには、薄刀『針』の特性をなにかしら活かした技なのだろうが……。
 軽く、薄く、そして脆いというあの刀を、どう活かせば技へと繋がるのだろうか。七花には検討もつかなかった。
「行くぞ虚刀流――拙者に、ときめいてもらうでござる」
 二ヶ月前にとがめの口から聞いた錆の口癖――そういえば口癖という割にこの戦いで初めて聞いた気がする。
 そうか――ようやく俺は、あんたに敵として認められたんだな。
「――やってみろよ。ただしその頃には、あんたは八つ裂きになってるだろうけどな!」
 どんな技だろうと関係ない。ただ――迎え撃つのみだ!

 決戦場、巌流島に一陣の風が吹きすさぶ。
 それがまるで合図であったかのように、錆は跳んだ。
 歩方『爆縮地』も用いない、ただの跳躍。それでもその高さは軽く常人の域を越えてはいたが。
 その錆の行動に困惑したのは傍で見ていたとがめである。
 剣士同士の戦いにおいて、空中へと跳ぶ事はあまり褒められた戦術ではないからだ。
 確かに空中からの重力の勢いを加味した攻撃はその通り重さを増すだろう。だがしかし身動きのとれない空中では、いかな達人といえど敵の攻撃を避けることができない。あまりに博打がすぎるというものだ。
 限定奥義『薄刀開眼』とやらはそのような危険を冒さなければ打つことができないというのか……?
 その跳躍がほぼ頂点へと達したその時、錆白兵は剣を振るった。『速遅剣』を警戒したのか、真下にいた七花が身をかわす。
 だが、おかしなことに七花のもとへ斬撃が届いた様子はない。
 失敗か? 錆白兵が失敗? そんな馬鹿な。疑惑困惑がとがめの脳内をかける。
 だがその疑惑も新たに現れた異変の前に霧散する。
 錆が刀を振りぬいた辺りの空間が、何やら歪んでいるような――否、ずれているような――なんとも形容しがたき状態へと変化したのだ。
 突如出現した謎の空間を尻目に、錆白兵は降下していく。
 そのまま重力にまかせるがままに落下し、その勢いと共に七花へと斬りかかる。
 薄く、美しい薄刀が、七花の制空圏へと触れようとした瞬刻――
 
地面が――七花ごと爆砕した。
 

 爆破、爆裂、爆砕。
 そのとき起きたことを形容するには、そんな言葉がふさわしい。
『爆縮地』によって巻き起こる衝撃などとは比べ物にならない。
 破砕した地表の欠片が、遠く離れたとがめのもとにまで飛んでくる。衝撃の中心にいた七花は未だ土煙にまぎれて安否を確認できない。
(まるで火山が噴火したかのようだ! 人の身に――人類のあのようなことが果たして可能なのか!?)
 とがめの優れた観察眼は、今の爆発の正体に――『薄刀開眼』の正体にすでにあたりをつけていた。脳内で打ち立てた仮説に、とがめは九部通り確信を抱いていたが――それでもその仮説の現実性の薄さにとがめは肯定しきれないでいた。
 
 突然だが。
 かまいたちという自然現象が存在する。
 旋風の中心に生じた真空が、人の肌を切り裂いていく現象の事だ。
 人が居合いによって、間合いの外にいる対象を斬る事ができるのも、この真空によるものだ。
 神速を越える抜刀により、空気が刀に取り払われ――そこに真空が生じるのである。