剣ノ一声
第八章 三人目の戦空士
セシリア戦から二日目、妖魔騒動で大騒ぎの真っ只中。とある一人の青年が新たに学園の正門へ訪れた。外見は肌が少々濃く、いかにも関西風な顔つきをしていた。
「ここが新しい働きばしょかいな?」
青年は堂々と正門を潜ろうとするが、やはりここでも例の門番の女性に捕まってしまったのだ。
「ちょっと!待ちなさい!?」
「はい?」
青年が振り返ると、そこには剣幕を上げた軽微の女性がこちらへ大股で歩み寄ってきた。
「わてに何か?」
「何かじゃないでしょ!ここは少女達の神聖なるIS学園なのよ!?不潔そうな下心ムンムンの男子が近づこうなんてもってのほかだわ!?」
「ほう?その不潔そうな下心ムンムンっちゅう男子ってうちのことかいな?」
「そうよ!大体……」
「ほな、これで許してもらえる?」
ため息をついて青年は懐から一枚の書類を彼女へ差し出した。それは「IS学園入稿許可書」である。呼んで字の如く入校のための許可書だ。しかし、これは単なる許可書とは格が違う。
何せ世界一の最大規模を誇る学園施設に入れるのだ。こんな書類を所有している人物といえば政権家か首相絡みの人間達だ。そんな書類を見せられた警備員は先ほどの態度とは全く違う
態度へと一変した。
「も、申し訳ございません!大変失礼しました……どうかお許しを〜!!」
「ええんよ、どうせうちは不潔そうな下心ムンムンの日本男児やさかい」
「と、とんでもございません!どうかこのことは内密に……!」
と、泣きじゃくりながら何度も土下座を繰り返す警備員。しかし、青年は気がいいことに彼女の態度を全く気にかけていなかった。
「そんじゃあ、入れてくれるぅ?」
「はい!どうぞ、こちらへ!!」
「ほな、おおきに♪」
そういって青年は気軽に正門を潜り通った。学園の広場で立ち止まると、青年は先ほどから耐え続けていた笑いを一気に吹きだして爆笑した。
「ギャハハ!阿呆なアマや、この紙っぺらが本物とマジで信じおったわ!!」
腹を抱えて笑う彼を周辺の生徒達が目に止める。その中にはやはり不審者を見る軽快な目をする女子も少なくは無かった。しかし、それは青年の一喝で蹴散らされる。
「何や!そんなに男が珍しいんか!?おんどりゃあぁ!!」
二階まで響くその大声で周囲は血相を書いて逃げ出して行った。
「けっ、キモの小さい女子らや!」
青年は舌打ちと共に校舎へ入っていった。青年が居なくなってしばらく経つと、広場でもう一人少女が歩いてくる。背丈は小柄でツインテールの少女だ。何やら体力的に疲れている様子で
ある。
「やっと着いたわね?はぁ、ここまでくるのにえらい道のりだったわ」
そう言うと彼女は校舎へと入り事務室へと向って自分が向う教室の場所を尋ねた。
「あの、一年二組の教室ってどこですか?」
「一年二組の教室ですね?」
事務員の女性が現れ、地図を片手に彼女へ丁寧に教える。大体場所はわかったところで、少女は女性に最後の質問をする。
「あの、二組の代表生ってもう決まっているんですか?」
「ええ、そうですけど?」
「……そうか、それじゃあ少しお願いがあるんですけど?」
「はい?」
「その代表生、私と代わってもらえませんか?」
「え、え!?」
*
一方、その頃。一斉達は相変わらずの居眠り授業に追われていた。勿論一斉は堂々と居眠り。全くと千冬は呆れている。呆れすぎて物を投げつける気にもなれなかった。
「だから、ここのISのコアは……」
そんな授業の中、教室の扉をガラガラと威勢よく開けて一人の来客が授業中かまわず無断で入る……いや、乱入してきた。
「ほぉ!わての学校より綺麗やな?汚い野球部共の悪臭も臭わへんし、女の子のええ匂いやわ〜」
「……誰だ?」
だが、青年の登場により今までグッスリ寝ていた一斉が突如起きた。
「何だか知らないけど、乱入者のようだぜ?」
と、隣で耳打ちをする清二。
「何だろう?私達と同じ力を感じる……」
さらには弥生も呟やく。
「誰だ?お前は」
不審者と判断した千冬は敵視する目で青年を睨んだ。
「オバちゃん、ちょっとええか?」
「お、おば……」
愛想のいい顔で千冬を横切って教卓の隣へ立った。まだ二十代前半の千冬は青年にオバさんと呼ばれて一瞬固まってしまった。その千冬をそんな呼び名をしたことによって千冬ファンか
らは敵視される目で睨まれる事になった。しかし、そんなのをお構い無しに青年はにこやかに自分の自己紹介を始めた。
「どうも!今日から一年一組の生徒になちゃった赤城良治いいますぅ。今後よろしゅう頼んます?」
「え、転校生……ですか?」
と、副担任の真耶が首をかしげる。確か今日は転校生は二組にくるはずじゃあ?
「ところで、眼鏡のお姉ちゃん?」
すると、この赤城良治という青年は真耶へと首を向けて尋ねた。
「え、私ですか?」
「そうや、そこのボンッキュッボ〜ンのアンタや」
「え、え!?」
こんなことを言われれば流石の真耶も赤くなりオーバーヒートを起こしてしまう。いや、現に起こしてしまっている。
「あら?気絶しよったんか?まぁええ、なぁ?そこのオバ……
ゴンッ
これ以上言わせないと千冬の拳骨が良治の頭上へ降り注いだ。
「いったぁ〜い!何するん?」
「私はこれでも二十代だ!それと、女性に対して言葉もわきまえろ!」
「何や、おっかないオバ……じゃなくてお姉ちゃんやな?あ、ホンマや?近くで見たら列記としてお姉ちゃんや。いやぁ!スンマヘンな?なにせわて、クールな人を見るとついオッちゃん、
オバちゃんって呼んでまうんよ?こりゃあ失礼しました!ハッハッハ〜」
「……で、この学園に何用だ?」
「ああ、わてはこういうもんや!」
良治は懐から再びあの書類「IS学園入校許可書」を取り出して彼女に見せた。しかし、しばらく間が空くと。千冬の眉毛がピクリと動いた。
「ほう?貴様、こんな「偽物」でよくここまで入れたものだ?」
「……!」
さすがの良治も一瞬目が険しくなった。そんな二人のやり取りを見ている一斉達も目を丸くする。
「こいつ、何者なんだ?」
一斉の目が光り、良治を見た。
「なんや……お姉ちゃん、わいの偽造を見破るなんて大したもんやな?けど、学校での入校は絶対やさかい!」
「……もしや、貴様も「イスルギ」とかいう組織の一人なのか?」
「おお!知っとるんか?そんじゃあ、ここにもわてと同じ戦空士が居るん!?」
と、目を輝かせて歓喜になる良治に一斉は席から立ち上がった。
「おい?戦空士っていったな?」
「ん?」
「俺達が千冬公の言った戦空士だ」
「おお!早速お仲間を見っけた!?」
大はしゃぎで良治は一斉の元へ駆け寄ってきた。
「ん?こっちの太ったあんちゃんも戦空士か?」
「うん、一夏以外の男子と弥生ちゃんだけは戦空士だよ?」
「弥生ちゃん……?」
「私です、よろしく?」