剣ノ一声
軍刀に纏わりつく鎖はみるみるうちに錆つき、ボロついて粉々に砕け落ち、札も軽い風で剥がれおちた。そして、清二も俺と同じ現象。
「・・・・・・・・・・・」
「い、一斉・・・・・・本当に抜くのか?」
隣で鞘から刃をのぞこうとする俺を清二が心配する。
「大丈夫だ・・・・・・・たぶん!」
「一斉・・・・・・・!」
俺は戸惑う余地もなく、軍刀を一気に引き抜いて見せた。鞘から離れた軍刀は金色の光と共に美しい刃が姿を見せ、この薄暗い際具典一帯を薄明るく照らし始めた。
「これが・・・・・・・?」
だが、ふと弥生へ振り向こうとした途端、彼女の姿は一瞬にして消えていた。それと同時に彼女の悲鳴が外で響き渡った。
「弥生!」
「な、なんだ!?」
俺達は軍刀を抱えたまま外へ飛び出す。そこには弥生と共に信じられない空想の産物が目の前の視界に移っていた。
「なんだよ・・・・・・・・・・あれ!?」
それは、全長五メートルにも及ぶ巨大な髑髏の化け物が弥生の体を鷲掴んでいた。
「弥生!?」
「な、なんだよ・・・・・あの化け物・・・!?」
「ガァ・・・・グググゥ・・・・!」
髑髏は顎をカタカタ鳴らしながら唸りをあげる。そして、人間の言葉を。
「臭う、臭うぞ?他・・・・・にも、人間・・・・臭いが・・・・・・」
「あ、ああ・・・・・ば、化け物!」
「ウグゥ・・・・?」
清二の叫びに髑髏は俺達のほうへ音を鳴らしながら振り向いた。
「そこか・・・・・?ああ、見える!・・・・・見える!・・・・・・まだ、人間がいる・・・・・!」
すると、髑髏からあいた黒い眼の穴から青い炎が灯り、目玉となった。
「見える!そこに人間・・・・・・・・殺す、殺すぅ!!}
のそのそと髑髏はこちらへ近寄ってくる。俺と清二は腰を抜かして逃げようとはできなかった。なおも髑髏は殺気を広げて俺達へとゆっくりと襲いかかる。動けないうえにゆっくりと襲って
くる、これほどの恐怖はない。
「ど、どうしよう・・・・・・!来るよ!?」
「くそ!清二、お前は動くか!?」
「だ、ダメだ・・・・・・腰が思うように動かねぇ・・・・・」
「弥生!弥生!?」
俺は髑髏に捕まった弥生へと叫んだ。彼女はまだ殺されてはおらず、恐怖で黙り込んでいただけだった。
「つ、鶴来君!?」
「弥生ちゃん!無事かい!?」
「勝山君?・・・・・助けて!」
「待ってろ!今どうにか・・・・・・」
だが、腰が抜けて思うように動けない。それにもし動けたとしてもどうあの化け物に立ち向かえばいいのか・・・・・・・・・?
このまま殺されちまうのか?そう悔しさに無念が生じた際、突如、俺と清二の中にある声が響いた。
(二人の若き戦士よ・・・・・・・今こそ、長年にわたる封印を解き、我が魂を目覚めさせん)
「な、なんだ・・・・・・!?」
聞き覚えのある、そうだ!神社から聞こえてきた。俺たちに「目覚めよ」と囁いてきたあの声だ。
(選ばれし戦空士の二人よ、今こそ若き血潮が巡るその身に瞬着せよ!)
「・・・・・・・・・聞こえたか?清二」
いつの間にか俺は冷静な顔つきで清二へと問いかけた。
「あ、うん・・・・・俺も聞こえた」
先ほど俺よりもビビっていた清二さえも俺のように冷静な態度へと変わった。そして、いつしか腰が元通りになった俺は立ちあがり、この軍刀を見つめ、そして、その刀を夕暮れの空高く
貫くようかざし上げた。頭に思い描くのはあの化け物を倒して弥生を助けるために、幼いころから憧れていた正義味方、「ヒーロー」になることであった。
「頼む!俺に、力を・・・・・ヒーローになる力をくれ!!」
(よかろう・・・・・その覚悟、我が心に響いたなり。今この場のそなたへ「戦空士」の力を与えん・・・・・・・・!)
「・・・・瞬着!」
俺はそう叫び、刀を伝って体内へ流れ込む強大な力を感じ取った。そんな俺の姿を清二と弥生はただ見つめるだけしかできなかった。そして、俺の姿は一瞬の合間に変わり果てていた。
その身なりは、まるで日本軍の航空隊飛行装備着に飛行帽と紅いゴーグルの姿、そして口元を覆う覆面の白いマフラーが風に揺れて靡いていた。
「こ、これは・・・・・・・・!?」
(これぞ、戦空士の力、「零式」の力なり!)
「零式・・・・・戦空士・・・・・・?」
俺はただ、この姿を目に戸惑い、そして髑髏を目にした。