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伝説のヤンキー

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ニセモノヤンキー



 マリーと宇集院の対決は学園に大きな波紋を呼んだ。生徒たちだけなら噂レベルですんだ話が、新聞部の記事によって既存のクラブに対して疑問・なげかけへと変わった。

 運動クラブにおいて男女の垣根を超えて入部することは非常意識か!

 この一点に絞られた。

 さまざまな意見が飛び交った。

 体が違うのだから運動クラブにおいては男女別々で当然だ、世界で男女混合でプレーをするスポーツなんてないではないか、異性といっしょにすると気をつかう、鍛えられた体なら男女別々である必要はない、プレーが上手なら性別は関係ない、新しい型をつくるべし、等々……


「あと三人かぁ」
 サッカー同好会と兼用になった新聞部の部室でマリーはため息をついた。

「大丈夫、大丈夫。オラが3人分プレーしてみせるから、わはははは」

 マリーはその後、サッカー同好会を立ち上げた。今のところ8人が集まった。

 まず、埼玉紅さそり隊の竜子に連れられて、お銀、ふきでものマリーの三人が入部を希望した。意外なところで、しんのすけの憧れマドンナ・ななこが友人の神田鳥 忍を伴って入部を希望した。そしてなぜかボーちゃんも入ってきた。

 これに師走マリーとしんのすけを入れて8人である。


 真剣にプレーを考えているマリーにとって戦力になりそうなのは、竜子、忍。ふきでものマリーも鍛えれば大きな戦力になるだろう。秘密兵器としてはボーちゃんとしんのすけだ。

 しかし、彼女は普通の女の子としてお銀、ななこも大事にしたかった。そう。この同好会が特別になってはいけないのだ。

「よーし、キャプテン。今日はかすがべ公園までダッシュしようぜ!」

 竜子はとても心づよかった。クラブとして認められていないサッカー同好会は運動場の割り当てはない。外で練習するしかなかった。

 予算も下りるかどうか分からなかったが、なぜか古典の中島花子先生が顧問を率先して引き受けてくれたので、存続は可能となった。



「やっぱり、学校で練習してみたい!それを他の生徒たちにも見てもらいたいんだ。そうすりゃ入部希望者も増えるかもしれないし……週に1日でいいからサッカー場借りられないかな」

 マリーは練習後、風間トオルに部室で声をかけた。


「そ、そりゃ……ボクもそうしてあげたいけど……会長がね……」
「何とかしてあげなさいよ! あんた副会長でしょ。宇集院にビシッと言ってやりなさいよ」
 みさえが口をとがらす。


「だって……サッカー同好会はまだクラブとして正式に認められてないから……強く言えないんだよ……」

「11人いないと正式クラブとして認めてくれないだったら、私とあんたとますみちゃんが入れば済むことよ!人数あわせなんてどうとでもなるのよ!」

 トオルとますみはひえ~、という顔をした。むちゃくちゃである。新聞部とサッカー部のかけもちなど不可能だからだ(仕事をしないしんのすけは除く)。



「たいへんだー、だいへんだー 世にも恐ろしいことが起こったゾ」
 しんのすけが真っ青な顔をして部室に飛び込んできた。

「こらー!ズボンをはきなさーい!」
「おお!ユニフォームを脱いでから制服を着るのをすっかり忘れていたぞ」

「わすれるか!ふつー!上だけちゃんと着てるくせに! で。何なのよ、大変なことって」
「お!そだっ! 女子相撲部の大屋主代(おおやぬしよ)のまわしが何者かに切られていて、試合中にもろだしにあったらしいゾ」

「え?!」

「だからモロ出し!おお!おそろしー!大屋主代のモロ出しなんてー」
 ムンクの叫びポースをするしんのすけ。

「えーと、つまり……まわしが切れたってこと?もろざしにあって試合に敗れたわけじゃないのよね?」
 マリーが話を整理する。

「いいや!モロ出しは反則なのでモロ出しで敗れたんです」
 みんなは頭をかかえた。


 とにかく、大屋主代のまわしが何者かに切られていたらしいことは確かである。それもまわしを巻く時には気づかれないくらいの周到さで。

 もろざしの事をモロ出しとしんのすけは言っているが女子の場合は下にスパッツをはいているので、下半身が見えたわけではない。しかし、選手としたら屈辱的な負け方である。

 それにナゼ、大屋主代のまわしがきられていたのか?

 これは事件である。


「ふふふ、事件のニオイがするわ。私たち新聞部の登場ね」
 みさえが立ち上がった。

「試合から帰った部室に、伝説のヤンキーからの紙が貼ってあったらしいゾ」
「なんでソレを早く言わんか!? で、なんて?」

「えーと、〝ブスは目立つな?〟だったかなぁ…… 〝社会をみだすふつつかもの〟だったかなぁ……」
「はぁぁ?」

「なんか、そんな感じぃ?」

「しんちゃん、まだ女子相撲部いるよね!」

 マリーはそのまま部室を飛び出していった。
 当然、新聞部員たちも後に続いた。


 試合から帰った部室に貼ってあった紙にはこうあった。

―天誅 大屋主代は女子にあって相撲を行い破廉恥な風習を世間に広めた。あまつさえそれを持ち上げる者たちと結託して世の中を乱せしこと重罪である。ここに天に代わって仕置きを下すものなり。 /伝説のヤンキー ―

 この話題はまたまた学園中に波紋を呼んだ。

 新聞部は「この内容は今までの〝伝説のヤンキー〟らしくない。本物かどうか疑わしい」というコメントを共に発表した。


 なぜなら、大屋主代は人気があったからだ。きゃしゃ・可憐という容姿からは遠かったが、どっしりした体型とハキハキした性格が、学園のおっかさん的存在として多くの生徒に慕われていた。

そのうえ試合になるとレスラーとして強い敵を投げ飛ばす頼もしさが人気を呼び、女子相撲部の人気も高かった。そんな主代に〝仕置き〟がおりるなんて考えられなかった。それも、あんな理由で。

 みさえたち新聞部は密かに『伝説のヤンキー、ニセモノ疑惑』を立ち上げていた。


「となると、何の理由で大屋さんを狙ったか、だわね。〝伝説のヤンキー〟にまで化けてね」

 みさえはますみにヒソヒソと話しかけた。

「もういちど、コメントの内容を見直してみます。『女子にあって相撲を行い』って……これって、明らかに女性差別ですよ。犯人は男性じゃないでしょうか」

「そうね。本物の伝説のヤンキーは未だに性別不明。どっちにしろ、この内容は明らかに原理主義的だわね」

「そうですよ、今までヤられた連中ってみんな男性です。それも明らかに〝えげつない事〟をしていました。しごきという名の虐待とか、集団いじめとか、モラルハラスメントとか。でも大屋さんってそんなことしてないじゃないですか。これは明らかに、異質です」

「よーし、わかった!」

 しんのすけは不意に右手を上げて大声で叫んだ。

「こらっ!大きな声出さないでよ」

「なにが分かったんですか?等々力警部(=金田一耕介シリーズに出てくる警部)!」
 チューリップ帽、はかま、のいでたちのトオルは凡庸に質問した。

「犯人は宇集院魔朱麿だっ!金田一さん」
「ええ!宇集院ですか?しかし、昨日は生徒会でずっと僕といましたよ。犯行を行うのは不可能です」
作品名:伝説のヤンキー 作家名:尾崎チホ