伝説のヤンキー
容疑者
「あたしに何のウラミがあってこんなデタラメな記事を書くのよ!」
握りつぶした記事を、酢乙女あいは机に叩きつけた。
「ねぇ、ねぇ、オラも〝お泊まり会〟に呼んでほしーゾ。ハレムごっこしたいゾ」
「ひどい……しん様まで、こんな記事を信じておられますの? あたしはしん様ひとすじですのよ。こんな事する訳ありませんわ。全くのイヤガラセですのよ」
よよ、と泣きながらしんのすけにすがろうとするが、しんのすけはあいからススッと離れた。
「あのねー しんのすけだって新聞部なんですけど!それにこいつはハレムの意味、絶対分かってないわよ!」
腰に両手をあててみさえが叫ぶ。
「部長、今この記事を最後まで見て気づいたんですけど、これって『伝説のヤンキーからの投書を元に記事にしている』って書いてあります。うーん、あくまで〝伝説のヤンキー〟が仕置きした、としたいみたいですね」
ますみはめがねをぐいぃと上げて、あいの投げつけたくしゃくしゃの記事を広げ広げ読んでいた。
「この記事がどうして仕置きなの?」
「学園の風紀を乱す、淫乱女子生徒を許していいのか?とヤンキーが言っているとあります」
「なんですってぇ?!あたしが淫乱だっていうの!?」
あいが再び逆上した。
「だから、この記事によれば、ですよ」
ますみは冷静に答える。新聞部が書いていない、と、どうして誰もあいに教えてやらないのか?
「あなたたちが書いたんでしょ!!」
「いいえ。これは私たち新聞部の記事ではありません。ほら、微妙にレイアウトが違うでしょう? こっちが新聞部、で、こっちがニセモノ。通しのナンバーもありません」
新聞部のものとニセモノの記事を並べてみせる。確かに、比べてみれば違いは分かるが、1枚だけ見た場合では区別がつかない。学園にいるものであれば誰だって、新聞部のレイアウトをマネすることなど容易なのだ。
「部長、これからは偽造防止のために記事背景に地紋をいれようかと思います。ちょっと手間がかかるけど当新聞部製作によるものだ、という事を確かにするためにも、工夫してみます。この上に落款(らっかん)でも押せば、もっと偽造しにくいし。この事を次回の記事で明記しようと思います」
「おお、風間くん。たまにはいいアイデア出すのね」
「ヘコむなー、部長。おれ頑張ってると思うんだけど」
「ごめん、ごめん」
「ちょっと、どういう事よ!説明しなさいよ!」
あいには一連の内容を説明したあと、今度はみさえたちが乙女会について質問をした。
乙女会の実質の活動内容、ハレム云々の内容が全くの虚偽であるかどうか。
乙女会の実質は記事どおり。ティーセレモニーを中心にお嬢様たちのステータスクラブという感じだ。そしてハレム云々については、絶対にない!とあいは断言をした。
「じゃあ、こんな風に中傷される心当たりは?」
「そんなのありませんわ!」
取りつくシマもないとはこの事だ。すかさずますみが口を開いた。
「あら、桜田ネネさんとの確執は有名ですよ。他の女生徒からも『乙女会』の評判は悪いですよね。特権意識もっててムカつく~って噂もよく聞きます。あと、あいさんにひどいフラれ方をした男子生徒がネに持ってるって話もありますね」
パソコンをカタカタと動かしながら、ツッこむ。
「そ、それは……あたしが悪いんじゃありませんわ。ね、しん様そうでしょう?」
「お、オラしらない」
「ひどい、しん様……」
「とにかく! 酢乙女あい、さん」
こほん、こほん、とみさえ。
「今後の捜査はわが新聞部に任せてもらえないかしら? 今回はうちも利用されたくちで参ってるのよ…… よかったら、後で乙女会の会員名簿をもらえないかしら? 他の会員にも聞いてみるから」
「わかったわ」
あいは急にしゅんとなった。タカビーでワガママなあいだが、今回のことで相当ダメージを受けているのは間違いない。デマだと言っても世間の好奇の眼はなかなかそうは見ない。恐らく会の継続も困難になろう。新聞部からデマ記事に対する緊急号外を出すことを約束して、みさえたちはあいを帰した。
みさえは黒板に事件図を書きだした。
「容疑者としては薄いわよね。桜田ネネ、一部女生徒、……あいさんにフラれた男子生徒って誰か分かる?」
「マサオくんとか」
ボーちゃんがいきなり発言する。
「ぼ、ボーちゃんいたの!?」
「私もずっといるわよ。発言してないけど。転校生ってこういう時不利よね、学園事情が分からないから……」
マリーは机に腰かけながら発言した。長い脚がゆらゆらと揺れている。
「マリーちゃんはちゃんと分かっているわよ。存在感あるもん」
「ね、ね、他にもいるの?フラれた男子?」
「えーと、あいさんと同じばら組の河村やすお、ひとし、てるのぶ……ここいらもフラれてますね。河村やすおはチーターと呼ばれてるから、性格もそっち系です。案外復讐しそうかも」
ますみが自身の生徒データから情報を引き出す。
「そっち系って、どっち系?」マリーが笑う。
「でもね、おかしいのよ。今回と大屋主代の件を比べてみて」
みさえが、女子相撲部事件の容疑者の欄に何も情報がないことを指した。
「この2件は共通点があります。いずれも抜きん出た女生徒に対するバックラッシュ(*男女同権に対する反勢力)的なイヤガラセ。けどイケてる女生徒は、この学園でもかなりいるわよね。わざわざ大屋さんを選ぶのは何か訳があるハズなのよ。なのに怪しい関係者がひとりも浮かび上がらないなんて……」
「そういえば、生徒会とちょっとモメたことがあったけど……でも、そんなに大したことじゃなかったんだよね」
トオルが不意に思い出したように発言した。
「なに、何なの!?しょーもない事でもいいのよ」
「新年度のクラブの予算編成のとき、女子相撲部の配分がもっと多くならないか、って大屋さんが言ってきたことがあるんだ。確かに少し少なかったかな、って皆は思ったんだけど、会長がそれでいけ、て言うもんだから……生徒会としては、少なめの予算で押したんだ」
「で?大屋さんは何って?」
「ひどく怒ってた。顧問の先生まで出てきて予算のやり直しを要求したんだ。その時女子相撲部は成績もよかったしね。結局は生徒会がおれて、いつもどおりの額を配分したんだけど」
「ふーん、宇集院の面目がつぶれたわけだ」
「まぁ、ね。でも、予算編成はいつもすごく揉めるよ。お金のことだから。各クラブの部長と大喧嘩になることもしょちゅうさ」
「微々たる活動費しかもらない文科系とはエライ違いなのね。運動系は。みさえ部長、知らなかったぁ、あはは」
「で、風間くん。相撲部の代わりに予算を減らされた部って何部?」
マリーはハスキーな声で聞いた。
「……サッカー部……」