指切り
キョロキョロと周囲を見回しながら歩いていると、庭にある木の近くからすすり泣く声が聞こえた。
目的のものは恐らくあそこにあるだろうと思い、ジュダルはその木に近付いた。
「やっぱりそこにいたのかよ」
見ると、木陰で白龍がうずくまってめそめそと泣いていた。
声をかけられてジュダルのほうを振り向いた白龍の顔は、泣きすぎて目は腫れ、鼻の頭は赤くなっているという有様で、ジュダルは思わず噴き出してしまう。
「へへっ、面白い顔になってんな」
「! う、うるさいな! おもしろい顔とか言うなばか―!!」
白龍はジュダルに向かって罵声を浴びせると、先ほどのように声を殺すことなく、大声を上げてわんわんと泣き出した。その大音量にジュダルはしまったという顔をして、両手で耳を塞ぐ。
「あー、悪かった。俺が悪かったから泣きやめよ」
「うるさいうるさいー! うわああん!」
一向に泣きやむ気配を見せない白龍を持て余しかけたとき、隣の桃の木が目に入った。ピンと閃いたジュダルは、最近覚えた浮遊魔法を使って木の上部まで浮かぶと、実を二つ獲り地面に下りた。
「ほらよ、白龍」
未だに勢いよく泣いていた白龍だったが、ジュダルが顔の前に桃を差し出すとようやく少し落ち着いたようで、ぐすんと鼻をすすりながらもじっと桃を見つめてきた。
「せっかくとってきてやったんだから、お前も食えよ。……うん、うめぇ!」
シャリシャリと美味しそうに桃を食べるジュダルを見て、白龍はゴクンと喉を鳴らし目の前の桃に手を伸ばした。そして、一瞬だけ躊躇った後、実を一口分だけ口に入れる。
「……おいしい」
「だろ? やっぱ果物は桃が一番だよな」
その後、しばらく無言で桃を食べていた二人だったが、ふいにジュダルが口を開いた。
「なあ、何で泣いてたんだよ」
言いたくないなら別にいいけどよ、と前置きしつつ、ジュダルはちらりと白龍を見る。
「……転んで、痛くて涙が出てきたら、姉上に『そんなことで泣くものじゃありません!』って叱られて……」
話しているうちに思い出したのか、また白龍の目にじんわりと涙が浮かんでくる。
「んだよ、そんなことで泣いてたのかよ。くっだらねー」
「神官殿は知らないから! 姉上は怒るととっても恐いんだ!」
「お前がビビりなだけだろ。お前さぁ、いつもそんなにビクビクしてんなよ。お前はすっげえ強くなれるかもしれないんだぜ? 何たって器があるんだからな!」
ジュダルの言葉に、白龍は涙を引っ込ませてキョトンとした表情を浮かべる。
「うつわ?」
「そうそう。うちんとこのオヤジたちが言ってたんだよ。俺には王を選ぶ力があるって。その俺が言うんだから間違いねえよ!」
「王を選ぶって……僕は別に王になんてなりたくないですよ。それに、次の皇帝には白雄兄上がなるんだ」
「そういうことじゃなくてよ……そうだ、もう少しして迷宮ってやつを出せるようになったら、白龍をそこに連れてってやるよ! そしたらすっげー強くなれるぜ!」
「……よくわからないけど、強くはなりたい」
「なら決まりだな! 約束だからな!」
そう言うと、ジュダルは白龍の前に小指を向けた。白龍はぽかんとした表情をしていたが、ジュダルに「誓いの指切り」と言われ、たどたどしく自分の小指をジュダルの小指に絡める。
桃の木の下で、「ゆーびきーりげーんまーん」と歌う声が響いた。