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いつか宇宙人とバスケ、テレフォン、インタビュー

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 夜。おれは相変わらず、このマンションにいる。中学生のときは寝るだけだったけど、最近は本格的にここで暮らしてる。場所柄便利だし、愛着も沸いたし。もう、ここ備品じゃなくなったしね。
 昼間にうけたインタビューを思い出す。おれは部屋の明かりを消して、携帯だけ持ってベランダに出た。
 風はあんまり吹いてない。星と街明かりだけが、あの日とおんなじように、遠くのほうでしんみりと夜に溶けていた。
 アドレス帳を何度か開いて、閉じて、ためらってためらって、一度は部屋に戻ったけれど、けっきょくベランダに引き返して、コール音を聴いた。義務感に近かった。
「……あんだよ」
 あのときと同じワンコールで、低くざらついた声が出る。ちょっと機嫌悪そう。今日は大学はないんだろうか。
「急にごめん。いま大丈夫っスか?」
「おー」
「ひさしぶりっスね。元気?」
「まあな」
 大学行きながらバスケを続けてる青峰っちは、バイトやなんかもあるからわりと忙しいって聞いている。おれはおれで、モデルとしても俳優としてもけっこう大事な時期に入ってて、だからこうして電話なんかするのはけっこうひさしぶりだ。へたすりゃ高校卒業して以来、初めてかも。
「今日ね、おれ、映画のインタビュー受けてきた」
「へえ」
「青峰っちはなにしてたんスか」
「バスケ」
「そればっか」
 ほんと、そればっか。おれには聴き覚えのある会話だけど、青峰っちは覚えてるんだろうか。おれはいまでも覚えてるよ。青峰っちの一言一句、思ってたことも、ぬるい風の温度も、星のきらきらも、ぜんぶ。おれだけはいまでも覚えてるよ。
 同じ線は辿りたくないから、おれは意識して会話をずらす。
「今日は風がないっスねえ」
「そーだな」
「あれ、青峰っちも外っスか?」
「おう」
「めずらしいっスね」
 いや、そんなにめずらしくもないんだけど。おれ、電話なんかすごい久しぶりだから、ぜんぶめずらしい感じがしてる。それはつまり、そんなに長い時間、青峰っちと電話してなかったってことだ。わかってるけどね、もう。おれからかけなきゃつながんないってこと。
 わかってたくせに、でも、おれは正直に打ちのめされた。やっぱり電話なんかかけなきゃよかったって心から思った。星がきらきらしてて、おれは地球でそれを見てる。それでよかったじゃん。
 目の奥がずくずく痛くて、でも、中学のときからきたえてあるから、おれは半泣きを悟らせないことに関しては、誰より自信があるよ。
「星がさあ、きれいで、電話したんスけど」
「あぁ?こっからじゃ見えねえよ」
 ほら、やっぱり。
 遠い夜の果てできらきらきらきら、宇宙はおれには遠いなあ。
「まぁ、そんだけっス。じゃあね、おやすみ」
 返事は聞かないで、自分から切った。おやすみのあと、風邪引くなよなんて言われたらいよいよもってごまかせないくらい泣くけど、たぶんもう言われない。
 あーあ。青峰っちはこれから、どこの宇宙で、あるいは地球のどこで、1on1をやるんだろう。いや、べつにどこへ行ってもいい、いいんだけど、そのまえに一回くらい会いたかった。
 おれは携帯を握ったまま、スイッチが切れたみたいにしてベッドに倒れ込んだ。もう、今日はだめ、なにもかもがしんどい。寝て、ぜんぶ忘れちゃいたい。いまこんなふうに思ってることも、ぜんぶ。