キングダム・オンライン
「…っ……んっ…」
「あっ?気がついた?」
目が覚めたフードの女の子はまだ状況が把握できていないのか、辺りを見渡している。
ソラを見つけると途端に怒鳴り声をあげた。
「あっ…あんた!一体あたしに何したのよ?!」
とんでもない勘違いをしている彼女に誰か事情と状況を俺の代わりにしてくれ!
と、ソラは心の中で叫びつつ、
「あの場所で倒れたからここまで運んできたんじゃないか!」
こんな風に突っかかってしまう癖をどうにかしたいと常日頃思う。
そして、彼女をどうやって運んできたかはまた次の機会に。
「あのまま放っておいてよかったのに。余計なことを…。」
「え?」
「こんな世界にいるぐらいなら最後まで抗ってそこで死ぬならそれでよかったのよ。どうせここからは出られないんだから。」
「だから、君はあんなところで一人で過酷な戦闘をしていたのか。」
あの日…
茅場がこの世界のログアウトボタンをなくし、デスゲームにさせた。
あれから、人々は大きく二つにわかれた。
片方は街から出てデスゲームと抗い、もう片方は恐怖で街に留まるもの。
この子はその後者の方だったのだろう。
だが、何かのきっかけで彼女は街から出た。
それが何かはわからないが…
「君と出会えてよかったよ。俺は君を死なせない!俺がこの世界をクリアして君をあの世界に戻すよ!」
ソラは笑顔で彼女に向かってそう言う。
これは嘘偽りもないソラの本音だ。
それを聞いた彼女はポカーンとした感じでソラを見つめ、
「あははははは!」
突然笑い出した。
なぜ笑われているのかわからないソラは、
「なっ!なんだよ?!なんで笑うんだよ?」
「だって!あははは!そんなこと言う人初めてだったんだもん!」
それは、彼女と出会ってから初めて聞く明るい声色だった。
彼女はフードをとって顔を見せた。
髪は綺麗なブラウン色、目はくっきりしていて、いかにもどこかの令嬢のような美貌であった。
こんな美人にあったことがなかったソラは何をどうすればいいのかわからず、ただあたふたしていた。
「ふふ。私の名前は『アスナ』よ。」
「あっ!…えっ…と、俺の名前はソラ!よろしくな!」
ここでソラはふと思った。
こんな明るい性格のこの子が、なぜあんなところに一人でいて戦闘をしていたのだろうか?
だが、会ったばかりの人にそんなことを話してくれるのか?
それはない。
と、自己解決に至った。
結局、
「近くの宿屋まで送るよ。」
そして、彼女を送ることになった。
歩いている間は途切れ途切れだが会話をした。
なんでもない世間話なのだが女子との会話を今までしてこなかったソラには結構新鮮な感覚だった。
「おやおや、ソラ君じゃないか!女の子を連れてどこに行くのかな?」
宿屋にもうすぐ着くところで、声をかけられた。
この声には聞き覚えがあるソラはややバツが悪そうに後ろを向いて挨拶する。
「やぁ、『アルゴ』。元気そうでよかったよ。」
「気遣ってくれるなんて少しは女の子の扱いにはなれたのかな?それはそうと、なぜ君とソロのアスナが一緒にいるんだい?」
にやにやとした表情でからかってくるこの女の子。
名前は『アルゴ』
このSAOでは初の情報屋である。
本当のキャラネームではないらしいが、いつも顔に左右三本のひげみたいな黒い線があって、なおかつネズミみたいな格好をしてるから『鼠』なんて呼ばれたりしている。
彼女がどこから情報を入手しているのか不明であるが、彼女がβテスターであるという噂もある。
「いやっ、…その……たまたま迷宮《ダンジョン》でばったり会っただけだよ!そうだよね?」
ソラがアスナに同意を求めようと、横をちらっとみると
「この人にナンパされて、無理矢理宿屋に連れ込まれそうなところなの。」
なんてこと言ってるの!!!この人!!!!
ソラはとんでもない発言をしたアスナ本人を何度も瞬きしながら見る。
「わお!ソラ君も大胆だね♪その情報をアインクラッド上に流しておくよ!」
「ちょっと待て!そんなことしたら俺がこの世界をクリアなんて夢になっちゃうじゃないか?!」
「にゃはは!冗談、じょーだんだよ!この世界でそんなことしたら、《ハラスメント・コード》であっという間に牢獄行きだからね!」
《ハラスメント・コード》とは、異性に対していかがわしい行為を行うとそれを表れる警告表示のことだ。
「なんて冗談は置いといて、彼女はあなたの知り合いなの?」
アスナがソラに尋ねる。
アスナもアルゴの存在を聞いたことがないわけではないはずだろうが、なんせネットの事も知らないような感じの子だ。
「彼女は『アルゴ』。SAOの初の情報屋だよ。彼女の情報に何度も救われたよ!」
「ふふふ!このアインクラッドのことならなんでもお任せ!情報によって報酬さえもらえれば色んなジャンルの情報をあげるよ!」
「スゴいわね…。それじゃあ、この人の情報とかも手に入るの?」
「そりゃあ手に入りますとも!」
おい!こいつにプライバシーという概念はないのか?
ソラは愕然としてこの二人のやり取りを眺める。
このままこの場にいたらとんでもないことなりそうな気がした。
「そっ…それじゃあ、俺もう行くね!明日のボス攻略の会議に出るならまた会おうね!じゃ!」
そう言い残して、逃げるように走って行った。
また、明日もアスナに会えるだろう。
ソラはそう感じていた。
作品名:キングダム・オンライン 作家名:スバル